クリニックブログ

2023.08.142024.04.01

離人感・現実感消失

離人感・現実感消失

精神科や心療内科で取り扱う症状の中には、名前からはどのような症状なのかイメージしにくいものもあります。離人感はそのひとつと言えるでしょう。離人感で体験されるもの自体はそこまで病的なものではないため、症状の具体例を聞けば「自分もそんなふうに感じたことがあるかも…」と思われる方も多いかもしれません。

この記事では、離人感や現実感消失などについてお話します。

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離人感や現実感消失とは

離人感(あるいは離人症)とは、自分の行動や考え、体の感覚などに現実味を感じられない状態のことです。離人感はあまり病的なものではありません。思春期や青年期ぐらいの年頃で離人感を体験する方もいるので、そのぐらいのときを思い出してみてださい。自分で考えて行動しているけど、何か思ったり感じたりすることもなくどこか淡々と行動をして一日が終わっていく。

遠くのテレビをぼんやり見ているみたいに、クラスメイトたちが見える。あるいは、自分自身の行動をどこか遠くから眺めている感じがする。そんなふうに現実感に乏しい感じがしたことはありませんか。そういった感覚が離人感です。

とはいえ、全ての人が離人感を体験しているわけではないため、このような経験がない方も当然います。そういった方はあまり想像したくないことですが、家族が目の前で事故に遭った場面を考えてください。すごくショックなはずだけど、どこか他人事の出来事のように現実感が湧かない。目の前で騒ぎが起こっているけど、音がどこか遠い感じがする。そのような状態が離人感に近いと思われます。

現実感消失とは、自分の周りの状況に現実感を持てない状態のことです。目に見える世界が生き生きと色づいている感覚がしない、自分と周りの間に見えない壁があるような感じがするなどと表現されます。離人感と同様に、現実感消失もあまり病的なものではありません。

離人感や現実感消失はそこまで深刻な症状ではない

言うなれば、離人感や現実感消失は「今をイキイキと生きている」という実感に乏しい状態です。これらの症状は「解離」という障害群の中に含まれます。当然のことですが、起きて生活している間は「ずっと」何か考えたり感じたり行動したりしていますし、その間の記憶も「ずっと」あります。

しかし、離人感や現実感消失が生じているときには、この「ずっと」が途切れてしまいます。この途切れることが、解離と呼ばれるものです。途切れるのが数時間から数日程度の一時的なものならば日常生活に支障を来すことはほぼないので、あまり問題とはなりません。解離がどのくらいの期間続けば問題となるかは定義されていませんが、少なくとも解離することで生活に支障が出たり、本人が苦痛を感じていたりする場合は治療対象となるでしょう。

なお、離人感や現実感消失では統合失調症のように「自分が誰かに操られている」という妄想的な考えはありません。そのため、現実検討能力(自分に起こっている事柄を社会の多くの人と同じように解釈する能力。この能力に乏しいと、自分一人だけに通じる解釈の仕方、つまり妄想的な解釈となります)はあります。

離人感や現実感消失が生じるメカニズム

離人感や現実感消失に共通する特徴として、「自分がこの世界に生きているという実感が薄れること」が挙げられます。なぜ実感が薄れる状態にならざるを得ないかというと、多くの場合は強すぎるストレスが関係しています。事件や事故などのストレスが起きたならば、冷静にすぐに対処したほうがよいのは誰もが理解するところです。しかし、これは事件や事故の被害にすぐに直面しなくてはならないことを意味します。被害と向き合うのはとてもつらいことです。

この点で、現実と距離を置く離人感や現実感消失は自分を守るための自己防衛とも言えるでしょう。大地震や火事などの心的外傷体験の直後に離人感や現実感消失が生じることが多いのは、このためです。そのため、数時間から数日程度の離人感や現実感消失は問題ないのです。

なお特に大きなストレスがない場合でも、思春期や青年期ぐらいの若い人では離人感や現実感消失が見られることがあります。中年期以降の年を取った人ではあまり見られないということを考えると、ストレスへの耐性やストレスへの対処能力の高さが関係しているのものかもしれません。

似て非なる概念-メタ認知-

自分の考えや感情を遠ざけるという点で似た概念として、メタ認知があります。メタとは、外側に立って見ること。そのため、メタ認知とは一歩引いた位置から物事を見つめたり、考えたりすることです。有名な哲学者ソクラテスの言葉に「無知の知」があります。これは、「自分には知識がないということを知っていること」を意味するものです。「知識がない自分」を「知っている自分」。この後者の視点がメタ認知です。離れた外側に立つことで視野を広げて考えられ、それゆえに目の前の感情の渦に巻き込まれにくくなります。

ストレスによるつらい感情を弱めるという結果自体は同じですが、離人感では無意識に行われる自己防衛、メタ認知は意識的に行うストレス対処という違いがあると言えるでしょう。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など