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2023.12.302024.04.01

性別違和~社会環境との関連、性的嗜好性など~

性別違和~社会環境との関連、性的嗜好性など~

社会環境や周囲からの理解によっては、出生時に指定された性とその人が体験・表出している性との間に不一致が生じていても、苦痛を感じないことは十分にあり得ます。性別違和に伴う苦痛を理解するうえで、社会環境との関連や、性的嗜好性などは外せません。

この記事では性別違和について、社会環境との関連、性的嗜好性などから解説します。

苦痛の表出と社会環境

性別違和で苦痛が生じるか否かは、社会環境に大きく左右されると言えるでしょう。定型発達の子どもにおいてその性別に特徴的な行動が見られる2~4歳から、性別違和が見られ始めます。しかし子どもの患者の場合、自身の望むもう1つのジェンダーで生きてよいと認めてくれる社会環境では苦痛が表出されない可能性があります。

青年や成人の患者の場合、子どもと異なり体毛や乳房、性器といった身体の性と体験される性との間の強い不一致のため、苦痛が生じることもあります。下肢の毛を剃る、大きめの服を着て乳房を隠すなどの行為によって、患者は身体の性を隠そうとすることもあります。

また、性腺ステロイドホルモンの抑制剤を求めることもあるでしょう。性の不一致を軽減できる生物医学的治療の存在や、ジェンダーについて受容的な環境が周囲にある場合は、苦痛が軽減されることもあります。

発症と経過

性別違和の発症には以下の2種類があります。

①早発性性別違和

小児期から性別違和を発症します。青年期・成人期にまで持続する患者がいる一方、途中で性別違和が中断する期間を挟んで再発する患者もいます。なお小児期から青年期・成人期までの性別違和の継続率にはバラツキが大きいです。

出生時に男性と指定された患者では2.2~30%、女性と指定された患者では12~50%と考えられています。なお現在の追跡症例では多様な介入方法を受けた子ども患者で構成されているため、治療法ごとの継続率については明らかにされていません。

また、追跡調査という手法の限界から、受容的な環境にいるほうが高い継続率を示すかについても、同様に不明です。

②晩発性性別違和

思春期、あるいはそれ以降に性別違和を発症します。ただし、晩発性性別違和の患者の中には、言葉では表現していなかったがもう1つのジェンダーになりたいという欲求を持っていた者も存在します。なお、出生時に男性と指定された人と比べて女性と指定された人の場合、晩発型の頻度はかなり低いと言われています。

性的嗜好性

性別違和は「性」についての問題でもあるため、性的活動・性的嗜好性に悩むこともあるでしょう。患者の悩みや考えを理解するために、出生時に指定された性別と発症様式ごとに性的嗜好性について記載します。

早発性性別違和 晩発性性別違和
出生時に

男性と指定

ほとんどが男性嗜好である。 性的嗜好性は女性であることが多い。また、自身と同様に晩発性性別違和を持っていて出生時が男性と指定された人の性別変更後の人(すなわち女性としてのジェンダーに再指定した人)にも性的魅力を感じる。

性的興奮を伴う異性装行動に没頭することが多い。

出生時に

女性と指定

ほとんどが女性嗜好である。 多くが男性嗜好である。

ただし、性的興奮を伴う異性装行動はあまり見られない。

性別違和に関連する要因

性別違和に関連する要因として、以下が挙げられます。なお、意外かもしれませんが性分化疾患は性別違和に結びつくわけではありません。性別違和の患者は「自分は別の性別であるに違いない」という考えを発展させるのに対し、性分化疾患の患者さんの多くは「自分の性別について不確実さ」を抱くようになることが多いです。

気質要因

早発性性別違和を持つ人に見られる非定型的な性別行動について、その非定型性の程度が強いと性別違和を発症させたり、その後の青年期・成人期においても性別違和を継続させたりする可能性があると考えられています。

遺伝要因

双生児研究から、性別違和には遺伝的要因が若干関与していることが示されています。

生理学的要因

出生後のアンドロゲン曝露により性別違和のリスクが高まることが分かっています。ただし、性別違和についての詳細で包括的な診断的面接による評価にとって代わるほど十分信頼できる診断マーカーではありません。

有病率

成人における性別違和の有病率は、出生時に男性と指定された患者では0.005~0.014%、出生時に女性と指定された患者では0.002~0.003%と言われています。ただし、性別違和で苦しんでいる人間全てが医療機関を受診しているわけではないことを考慮すると、先の有病率は過小評価されていることを念頭に置く必要があります。

男女比は年代によって異なります。幅はあるものの、子どもの患者においては出生時に男性と指定された患者のほうが1:1~6.1:1と高いです。その後青年では男女比は同じ程度ですが、成人においては出生時に女性と指定された患者のほうが2.2:1と高いです。

さいごに

このように性別違和には、複雑で詳細な症状や背景が関連しています。そして特に性同一性障害の診断はとても難しく、そのため性同一性障害に関連する学会が認定医を設置しています。

※なお当院では性同一性障害(GID)の学会認定医は在籍していないので、性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインに基づいた診断や治療が当院できませんので、診察の対応が困難なケースとして挙げさせていただいております。どうぞご理解くださいませ。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など