解離性同一症~概要・診断など~ 内容の未確認
解離性同一症~概要・診断など~
解離性同一症は、以前は多重人格性障害と呼ばれていたものです。解離性同一症を取り扱った作品に『24人のビリー・ミリガン』や、『イヴの3つの顔』などがあります。いずれの作品を視聴しても「本当にひとりの人間の中に複数の別パーソナリティが存在するのか?」という疑念は晴れないので、その診断は本当に難しいものです。
この記事では、DSMに基づいて解離性同一症の概要や診断などについて説明します。
解離性同一症とは
解離性同一症の一番の特徴は、ひとりの人間に2つ以上の別個のパーソナリティが存在することです。それぞれのパーソナリティが環境や自身について別々に感じ、考え、行動します。他のパーソナリティについて患者さんが認識していることもあれば、そうではないこともあります。なお別のパーソナリティは、分身、自己状態、変容した同一性、役割分身などと呼ばれることもあります。
症状
解離性同一症の症状は別のパーソナリティが存在することだけではありません。多くの場合、健忘やとん走、離人感や非現実感といった解離症の症状が見られます。記憶障害の現れ方は患者さんによって異なりますが、思い出せない期間の始まりと終わりがはっきりしているという特徴があります。
他の疾患との症状の類似性
また、以下のように他の精神疾患で見られる症状も数多く見られます。
・侵入的症状や過覚醒などのPTSDの症状
・抑うつ気分や無力感、自殺念慮などのうつ病の症状
※頻繁な気分の変動は解離現象によって引き起こされた症状であり、循環性気分障害のものとは異なる
・確認強迫や洗浄強迫などの強迫症状
(例)自分の寝室に誰も入っていないことを何度も確かめる
汚された感じをなくすために体を何度も洗う
症状の多様性からも解離性同一症の診断はとても難しいのです。
同一性の解離性変容が明らかになるきっかけ
複数のパーソナリティが存在することは「同一性の解離性変容」と呼ばれます。これが明らかになるきっかけとして、以下があります。
・自分について複数扱いで話す
・自分のことを名前(ファーストネーム)で呼ぶ
・自分について「その体」というように現実感を喪失した言葉で表現する
・自分の悩みや葛藤に対して複数のパーソナリティがあることの意味を話す
後述する質問検査でも、こういった内容が踏まえられているようです。
小児や青年の症状
特に幼い子どもの場合、時間が一直線上に連続して流れるという感覚が弱いです。また、解離しているため自分の行動を連続的なものとして認識できなくなっているという異常を認識できません。そのため、教師や親などからの情報が解離行動を確認するうえで必要になることもあります。
幼い子どもはイマジナリーフレンド、学術的にはイマジナリーコンパニオンと呼ばれる想像上の仲間と遊ぶことがあります。解離性の他のパーソナリティではなく想像上の仲間から命じられて行動することもあるため、その点を踏まえて問診しなければなりません。なお、イマジナリーコンパニオンは統合失調症に見られる妄想と異なり、病的なものではありません。ほとんどの場合、年齢が経つに連れて消失していきます。
病因
解離性同一症の患者さんのほとんどは小児期に心的外傷を受けた経験があります。最も多い心的外傷は身体的虐待や性的虐待です。
疫学
解離性同一症の系統的疫学データはほとんどありません。ただし臨床的研究によると、男女比は1:5~9と幅はありますが、女性が多いと報告されています。
診断
的確に解離性同一症の診断をするうえで用いられる質問として、以下が挙げられます。
①あなたが場面によって異なる行動を取るのは、あなたの中に自分とは異なる人物がいるような感じがあるからか?
②あなたは複数の自分がいると感じているか?複数の自分は葛藤や逃走状態にあると思うか?
③あなたの中の他の人物たちは、それぞれ別々の考え方や感じ方をしているか?
④あなたの中の他の人物の中には、あなたの行動を支配する存在がいるか?
⑤自分が考えたり感じたりするとは思えないような考えや感覚を抱いたことはあるか(被影響性の確認)?
⑥自分がするとは思えない行動を、体がしていたことはあるか?
(例)買った覚えのない物が部屋にある
行ったはずのない場所に自分がいた
自分や他人を傷つけていた
⑦あなたがやりたいと思わないことを、あなたの中の別人格がやりたいと思っていて、それと戦わなくてはならないと感じたことはあるか?
⑧自分の発言や行動を止めようとしている別の存在やその力を、自分の中に感じたことがあるか?
⑨自分の心の中で他の人物の声や会話を聞いたことがあるか?もしあれば、それはどんな声?どんな内容の会話か?その人物の名前や性別、年齢は?
⑩あなたの中のある別の人格を呼び出すことはできるか?
⑪自分の体の外側に自分がいるような感覚を経験したことはあるか?自分の心が身体の外側にあるかのように、自分自身を眺めているという経験はあるか?逆に、自分の心の中にあなたがいるような感覚はあるか?
⑫自分の心が体と離れてしまったように感じたことはあるか?
⑬いま生きている世界が非現実的なものに感じられるという経験を何度もしてきたか?
⑭鏡を見たときに、自分が誰だか分からなかったという経験はあるか?自分が違う人に見えたことはあるか?
さいごに
解離性同一症に関連する質問は多岐にわたります。理由としては、他の疾患のとの類似性、または環境や背景への理解など多岐にわたるためでもあります。このような理由からも、解離性同一症の診断は容易ではなく、診察を経ることで見えてくるもの、分かってくる影響に気が付くこともあるのです。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など