クリニックブログ

2023.10.242024.04.01

離人感・現実感消失症

離人感・現実感消失症

離人感や現実感消失は抑うつや不安に次いで経験しやすい精神症状であり、健常者でも一時的に体験することがあります。しかし、抑うつや不安と比べると一般的な認知度が低いのは、おそらくは言葉では症状を表現できないことにあるのかもしれません。

この記事では、DSMに基づいて離人感・現実感消失症について説明します。

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離人感・現実感消失症とは

離人感と現実感消失は、DSMでは以下のように定義されています。

離人感:自らの考え、感情、感覚、身体、または行為について、非現実、離脱、または外部の傍聴者であると感じる体験

現実感消失:周囲に対して、非現実または離脱の経験
「いま自分が考えている、感じている、行動している」というのは言うまでもなく当たり前のことです。しかし、離人感・現実感消失症ではそれを感じられなくなります。離人感と現実感消失の症状の内容は、以下のように様々です。

・身体的変容(例 足元がフワフワとして夢の中にいるようだ)

・観察者と行為者という自己の二次元性(例 自分が行動しているのは分かっているけど、どこか他人事に感じられる)

・自分自身の感情から切り離されてしまった感覚(例 出来事や会話に対して何らかの感情を感じているはずなのに、どこか遠くのことのようだ)

・他者から切り離されてしまった感覚(例 誰かと話していても、夢の中のようで現実感がない)

統合失調症とは違い、離人感・現実感消失症では現実検討(自分の考えや認識が現実と一致していること。現実検討に問題が生じたものが統合失調症の妄想)には問題ないため、「誰かに操られている」とは感じません。離人感・現実感消失症で感じられるものは、体としての自分と心としての自分が離れてしまったと表現できるかもしれません。こういった体験を患者さんは「自分が死んでいるような感じがする」「自分の体の外側に、自分がいるようだ」などと表現することもあります。しかし、言葉では自分の苦しみを表現できないこと、自分の苦しみを十分に医師に伝えられないことなどについても、患者さんは苦痛を感じています。

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病因

病因としてまず挙げられるのが、心的外傷となるストレスです。1/3~1/2は過去に心的外傷となる経験をしていることが臨床的な研究によって報告されています。また事故の被災者を対象に行われた研究によると、命が脅かされる体験をした人の60%が、事故のときあるいはその直後に一時的に離人感を経験したことが分かっています。これらはフロイトに始まる精神力動学の考えと一致するところであり、自我を防衛するために離人感が生じていると考えられます。

また神経生物学説によると、セロトニン様物質が離人感に関係しているようです。その根拠は、離人感に対してSSRIは良好な治療反応を示すことや、L-トリプトファン(セロトニン前駆物質)の枯渇状態では離人感が起きやすいことなどです。

ほか、発作性疾患や片頭痛の患者さん、マリファナやリゼルグ酸ジエチルアミド、メスカリンなどの幻覚剤を使用した人などにも離人感がよく見られると言われています。

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疫学

離人感・現実感消失症の一般人口の年間有病率は19%と報告されています。平均発症年齢は青年期後期や成人期初期ぐらいであり、女性のほうが男性の2~4倍ほど体験しやすいです。

また命の危機にかかわる体験の後では、実際に重度の外傷を負ったかにかかわらず、離人感が生じやすいです。

鑑別診断

離人感を引き起こす疾患・物質は以下のように多岐に渡ります

・精神疾患の例…パニック発作、恐怖症、PTSD、急性ストレス障害、統合失調症
・神経学的疾患の例…発作性疾患、脳腫瘍、脳震盪後症候群、代謝異常、片頭痛、めまい、メニエール病
・物質の例…マリファナ、コカインなどの精神刺激薬の中毒・離脱症状

そのため、徹底した身体的、神経学的評価が大切になります。脳波検査や薬物スクリーニングなどを行うこともあります。

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治療

離人感・現実感消失症の治療は非常に困難なこともあります。その理由のひとつは、うつ病不安症と異なり特に有効な治療法がないことにあると言えるでしょう。SSRIは離人感・現実感消失症の症状改善に有効ですが、最近行われたプラセボとの二重盲検試験では治療効果が認められなかったことが報告されています。抗うつ薬や気分安定薬、定型あるいは非定型抗精神病薬、抗てんかん薬などによる治療効果についても、部分的に効くこともあるという程度であり、十分な治療効果は望めないようです。

心理療法についても同様であり、特に有効な治療方法は現時点ではありません。ただし、ストレス対処法や弛緩訓練、身体的運動といったストレスコントロールやリラクゼーションを学ぶことが治療の役に立った患者さんもいると報告されています。

経過と予後

離人感の原因が心的外傷やストレスである場合、それらから距離を取ることで症状が自然に寛解します。また、うつ病や不安症など他の精神疾患に伴う離人感については、原因となる疾患が治癒すれば、離人感も寛解していきます。

ただし必ず治るとは限らず、挿話的に症状が出てくる場合や、再発と寛解を繰り返す場合、慢性的な経過をとる場合などがあります。特に慢性的な経過をたどる場合、職業的、社会的、個人的に大きな支障をもたらされるようです。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など