持続性抑うつ障害(気分変調症)について
持続性抑うつ障害(気分変調症)
~症状の発展と経過、併存症と鑑別診断などの関連情報~
前編の記事では、DSM5に基づいて持続性抑うつ障害(気分変調症)の概要やその診断基準などを説明しました。
後編では、持続性抑うつ障害(気分変調症)の症状の発展と経過、併存症と鑑別診断などの関連情報を解説します。
有病率
日本における持続性抑うつ障害の有病率は5~6%であると考えられています。
症状の発展と経過
持続性抑うつ障害は小児期や青年期、成人期早期に発症しやすく、子どもや若い人に多い疾患です。潜行性(本人が症状に気づいていない間)に発症し、慢性の経過をたどります。
持続性抑うつ障害の症状の見られている間の途中で抑うつエピソードが見られることもあります。しかし、その後は抑うつエピソードを満たさない低いレベルに再び戻ることが多いです。なおうつ病の場合、治療を開始してから3か月以内に患者さんの40%が、さらに1年以内となると患者さんの80%が回復すると言われています。しかし、持続性抑うつ障害は一定期間内に回復する可能性は非常に低く、治りにくいです。
危険要因と予後要因
うつ病と同様に持続性抑うつ障害においても、神経症的傾向の高さは予後が不良になるリスクとなります。また、機能が障害されている程度や症状の重症度が大きかったり、不安症群や素行症を併存していたりすることも、予後が不良となりやすい要因です。
また、持続性抑うつ障害もうつ病と同様に遺伝も強く関与していると考えられています。この疾患は非常に若い段階から発症するということから、リスクとなるストレスフルな出来事としては親との別れや親の喪失が挙げられます。
併存症と鑑別診断
持続性抑うつ障害はうつ病と比べて精神疾患を併存することが多いです。特に併存するリスクが高い疾患として、不安症群や物質使用障害群が挙げられます。なお、早発性の場合は、パーソナリティ障害のB群(感情が激しく、また変化しやすいパーソナリティ。境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害など)やC群(不安がとても強いパーソナリティ。強迫性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害など)や、物質使用障害を併存する可能性が高いです。
鑑別診断では、他のうつ病との違いをしっかり理解しておく必要があります。
うつ病
持続性抑うつ障害とうつ病の最も大きな違いは、症状の継続期間です。抑うつエピソードが2年間以上継続している場合は持続性抑うつ障害と診断され、そうではない場合はうつ病と診断されます。なお、持続性抑うつ障害とうつ病とでは症状リストが少し異なります。稀なことですが、抑うつ症状が2年間続いているけれども持続性抑うつ障害の診断基準を満たさないこともあります。現在の症状が抑うつエピソードの基準を完全に満たせばうつ病と診断されますが、そうではない場合は「他の特定される抑うつ障害」または「特定不能の抑うつ障害」と診断しましょう。
また前編の診断基準のコード記載でも説明した通り、過去から現在までの症状によって診断で記載される特定用語が変わる点に注意しなければなりません。例えば、2年間持続性抑うつ障害の症状で悩んでいた間に1回でも抑うつエピソードがあったのなら、「間欠性抑うつエピソードを伴う、現在エピソードなし」となります。
他の医学的疾患による抑うつ障害または双極性障害および関連障害
多発性硬化症のように、慢性の身体疾患が抑うつ症状をもたらすことがあります。身体診察や検査所見、病歴から身体疾患が抑うつ症状に直接的に影響を及ぼしていると判断される場合は、「他の医学的疾患による抑うつ障害または双極性障害および関連障害」という診断が下されます。身体疾患はあるけれども抑うつ症状には影響していないと判断される場合は、持続性抑うつ障害の診断名を記載したうえで付随する身体疾患を記しましょう。
物質・医薬品誘発性抑うつ障害または双極性障害
アルコールや医薬品などの物質が原因となって抑うつ気分がもたらされていると判断される場合、持続性抑うつ障害と診断することは不適切です。
精神病性障害
統合失調症や妄想性障害(何らかの誤った思い込みが1ヶ月以上持続する精神疾患。統合失調症と異なり、基本的に幻覚や感情鈍麻など他の症状は見られない)などの慢性の精神病性障害(「精神病」では幻覚や妄想、考えがまとまらなくなり支離滅裂な会話をしてしまうなどの症状が見られる。「精神疾患」とは異なる)でも抑うつ症状はよく見られます。残遺期(妄想や幻覚などの陽性症状がない、あるいは軽くなったが、感情鈍麻や意欲減退などの陰性症状が残っている状態)も含めて、精神病性障害の経過の中で抑うつ症状が見られる場合は、持続性抑うつ障害とは診断されません。
パーソナリティ障害群
この段落の冒頭でも説明した通り、特に若い患者さんの場合は持続性抑うつ障害とパーソナリティ障害が併存しやすいです。この場合は、両方の診断名が与えられます。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など