クリニックブログ

2019.10.102024.03.30

抗うつ薬について/新MANGAスタディー

抗うつ薬について

Andrea Cipriani先生等(オックスフォード大学)がまとめた抗うつ薬のメタ解析論文が、Lancet誌オンライン版で発表されました。日本からは元 名古屋市立大学の古川壽亮 先生(現 京都大学)が参加された論文ですが、先に発表されたMANGAスタディから9年、抗うつ薬も12種類から21種類に増加され、比較した論文数や患者数も約5倍(比較文献522報、症例数116,477例)とパワーアップした内容になっています。新たにプラセボとの比較した内容が加わり、反応率は全21種の抗うつ薬がプラセボに対して有意な効果があり(オッズ範囲2.13~1.37)、忍容性(中止率)は0.84~1.30と幅がありました。

全試験を比較した内容から、効果に関しては全ての抗うつ薬がプラセボより効果が強く、アミトリプチリンの2.13(オッズ範囲1.89~2.41)からreboxetineの1.37(オッズ範囲1.16~1.63)でした。忍容性に関しては、agomelatineが0.84(オッズ範囲0.72~0.97)およびfluoxetineが0.88(オッズ範囲0.80~0.96)のみがプラセボより脱落例が少なく、クロミプラミンがプラセボより脱落例が1.30と(オッズ範囲1.01~1.68)多かったそうです。全試験からプラセボ試験をのぞき薬剤同士での直接比較した結果ですと、下記に示しますように順位が入れ替わります(赤字は実薬対象試験で他抗うつ薬より優れていたものを示します。英語表記の薬剤は日本で未発売)。

この結果から言えることは現在の日本で使える薬剤の中ではエスシタロプラム(商品名 レクサプロ)が最もバランスがとれていて使い易い抗うつ薬ということです。

治療者が使える薬について論文からも精査されるというのは、患者さんの治療にも大きく役立ちますね。

 

 

【参考文献】抗うつ薬21種の有効性と忍容性を検討~522試験のメタ解析/Lancet

 

うつ病(大うつ病性障害)成人患者において、検討した21種の抗うつ薬は、すべてプラセボより有効であることが確認された。ただし、プラセボに対するオッズ比は有効性が2.13~1.37、忍容性(中止率)が0.84~1.30と幅があった。英国・オックスフォード大学のAndrea Cipriani氏らが、これまでに実施された抗うつ薬21種に関する比較臨床試験計522件のシステマティックレビューとメタ解析で明らかにした。うつ病は、世界的に最も頻度が高く、疾病負荷が大きな、医療費がかかる精神障害の1つで、一般的に心理学的介入よりも抗うつ薬による治療が行われている。新規抗うつ薬の増加に伴い、個々の患者に最善の治療薬を選択するためのエビデンスが必要とされています。著者は、「今回の結果は、エビデンスに基づいた治療を行う上で患者と医師にとって重要なものであり、ガイドラインや医療政策の策定においてもさまざまな抗うつ薬の相対的なメリットを参照すべきである」とまとめています。Lancet誌オンライン版、2018年2月21日号掲載の報告。

 

プラセボまたは実薬対照の無作為化二重盲検比較試験のデータを統合

研究グループは、Cochrane Central Register of Controlled Trials、CINAHL、EMBASE、LILACS database、MEDLINE、MEDLINE In-Process、PsycINFO、規制当局のウェブサイトにて、2016年1月8日までに報告された抗うつ薬の無作為化二重盲検比較試験(非公表も含む)について検索し、うつ病成人患者(18歳以上の男女)の急性期治療として使用された第1および第2世代の抗うつ薬21種に関するプラセボまたは実薬対照比較試験を解析に組み込んだ。準ランダム化試験や、双極性障害、精神病性うつ病または治療抵抗性うつ病患者を20%以上組み込んだ試験などは除外した。

 

Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventionsに従い試験のバイアスリスクを評価するとともに、GRADE frameworkを用いてエビデンスの質を評価した。主要評価項目は、有効性(奏効率)と忍容性(治療中止率:あらゆる理由で治療を中止した患者の割合)とし、ランダム効果モデルによるペアワイズおよびネットワーク・メタ解析を用い、要約オッズ比(ORs)を算出した。

 

抗うつ薬21種すべてプラセボより有効性を認めるも、効果と忍容性には差があり

検索した論文2万8,552報から、適格試験522件(計11万6,477例)が解析に組み込まれた。有効性については、ネットワーク・メタ解析の結果、プラセボと比較すると21種の抗うつ薬すべてが有効であった。ORsはアミトリプチリンの2.13(95%確信区間[CrI]:1.89~2.41)が最も高く、reboxetineの1.37(95%CrI:1.16~1.63)が最も低かった。忍容性については、agomelatine(0.84、95%CrI:0.72~0.97)とfluoxetine(0.88、0.80~0.96)のみがプラセボより有意に中止が少なく、クロミプラミン(1.30、95%CrI:1.01~1.68)はプラセボより有意に中止が多かった。

 

実薬の直接比較では、agomelatine、アミトリプチリン、エスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、vortioxetineは他の抗うつ薬よりも有効であったが(ORs範囲:1.19~1.96)、fluoxetine、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドンは効果が低かった(ORs範囲:0.51~0.84)。

 

忍容性については、agomelatine、シタロプラム、エスシタロプラム、fluoxetine、セルトラリン、vortioxetineは他の抗うつ薬よりも良好であったが(ORs範囲:0.43~0.77)、アミトリプチリン、クロミプラミン、デュロキセチン、フルボキサミン、reboxetine、トラゾドン、ベンラファキシンは中止率が高かった(ORs範囲 1.30~2.32)。

 

522試験中、46試験(9%)はバイアスリスクが高く、エビデンスの質は「非常に低い」~「中」にわたるもので、380試験(73%)が「中」、96試験(18%)が「低」であった。

 

(医学ライター 吉尾 幸恵)

 

 

【参考】

古川壽亮 医学研究科教授、小川雄右 同助教、Andrea Cipriani オックスフォード大学准教授らの研究グループは、これまで行われてきた第一、第二世代の抗うつ剤同士で効き目と副作用を直接比較した522の臨床試験結果を集め、統計的に処理することで、21種の薬剤の特徴を網羅的に比較・評価しました。その結果、アミトリプチリン(商品名 トリプタノール)やエスシタロプラム(商品名 レクサプロ)など8種の抗うつ剤は特に効果が強いこと、エスシタロプラム(商品名 レクサプロ)を含む6種の薬剤は比較的副作用が起こりづらいことが分かりました。医師の個人的な経験や印象だけではなく根拠に基づいた投薬治療を進めていく上で重要な参照情報になると考えられます。

 

本研究成果は、2018年2月22日午前8時30分にエルゼビア社の医学誌「The Lancet」にオンライン掲載されました。

 

概要

うつ病を生涯に経験する人は全世界人口のうち3%~16%との調査もあり、多くの人が現在も治療に取り組んでいる疾患です。WHOの推計では、人類が健康を損なう最も大きな原因の一つとされています。薬剤を用いた治療の他、物事に対しての考え方に加えどのような行動を起こすかコントロールを試みる認知行動療法などの選択肢も出てきていますが、人的・金銭的コストの都合上抗うつ薬による治療が行われるのが一般的です。

 

これまで多くの抗うつ薬が開発・実用化されてきました。もちろん全て臨床試験を経て市販されているものの、数十種に渡る薬剤を直接比較した試験は行われていません。そのため、どの抗うつ薬にどの程度効果が見込めるのか、副作用がどの程度出やすいのか、網羅的に確かめた例はありませんでした。

 

本研究グループは、世界各地で行われてきた抗うつ剤のランダム化比較試験で二重盲検化されている研究結果を収集、統合しました。出版されていないものも含め、2016年1月8日までに報告された522件、延べ116,477人の試験結果が含まれています。大人を対象としており、第一、第二世代の抗うつ薬21種と偽薬の効果を直接比較した試験を選びました。集めた試験結果の正確性や被験者の症状、人数の違いを吟味しつつ、抗うつ剤の効果と副作用で投薬を中止した割合を比較しました。

 

解析の結果、今回対象とした21種の薬剤は全て偽薬よりも効果があることを確認しました。しかし幅があり、効果の現れやすさを表すオッズ比では最も効果が期待できるアミトリプチリン(商品名 トリプタノール)が2.13なのに対し、レボキセチンでは1.38に留まりました。また、試験中に副作用で投薬を中止する割合も同様に薬剤同士で差が見られました。

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