レジリエンスについて

レジリエンス

ストレスに強い性格はいくつかありますが、おそらくその中で最も注目されているのは「レジリエンス」でしょう。医療、教育、福祉などの人々をサポートする現場だけではなく、従業員のメンタルヘルスを保つという観点から企業も関心を寄せています。

この記事ではレジリエンスの定義や、ストレスからの回復にレジリエンスがどのようにかかわるかなどについて解説します。

レジリエンスとは

ストレスが元々は物理学の用語であるように、実はレジリエンスも物理的な意味を持つ言葉です。私たちの心をボールに例えてみましょう。ストレスという外部からの圧力が加わると、ボールは歪んでしまいます。しかしストレスがなくなれば、ボールは元の丸い形に戻ります。この弾力性、回復する力がレジリエンスです。ストレスに悩んだり落ち込んだりしても、ボールや竹のようにしなやかに回復していく。そういったしなやかな強さがレジリエンスのイメージと言えるでしょう。

とはいえ、そもそもストレスに負けない強い性格になりたい方もいるかもしれません。ストレスに負けないのは魅力的ですが、そういった性格には問題もあります。例えば、ストレスをイヤなもの、不安なものではなく成長の機会として捉える性格もあります。こういった性格は専門的にはハーディネスと呼ばれるものです。ハーディネスの傾向が高い人は不安や心配などのネガティブな感情を感じにくいです。

しかし、その結果ストレスに向き合うことが多いため、体には常に負荷がかかり続けることになるという問題があります。ストレスに負けない他の性格として、ストレスにそもそも鈍いというものもあります。この場合、本人は問題ないですが、周囲の人が困るという恐れがあります。そもそも、ストレスに悩むこと、不安を抱くこと自体は決して悪いことではありません。そういったネガティブな感情を抱くことは、自分や環境に何か問題があることに気づくことにもつながるためです。

レジリエンスの要素

レジリエンスの研究は、「親が病気を患っている、家庭が貧しいなどのリスク環境であってもうまく適応して育つことができた子どもたちがいる。その子どもたちにはどんな能力があるのだろうか」という疑問からスタートしました。当初、レジリエンスは個人の能力として捉えられ、レジリエンスを持つ人と持たない人の違いを探ろうと研究されました。その後、「レジリエンスとは逆境に適応していくプロセスである」と捉える立場が生まれます。そして、個人の能力以外にも他者やコミュニティなどとのやり取りも含めてレジリエンスと見なす研究の流れが生まれました。いずれにしろ、「ストレスや逆境から回復するのに重要なものがレジリエンスである」と研究者ごとに定義されることになります。そのため、レジリエンスの要素について研究者間で一致した定義はありません。

とはいえ、レジリエンスを個人の能力と見なす研究では、生まれつきの資質的なレジリエンスと、成長や訓練などによって身に付けることのできる獲得的なレジリエンスがあると考えることが多いです。

資質的なレジリエンス

資質的なレジリエンスの例として、以下があります。
・楽観性
・感情のコントロール能力
・行動力（ストレスを打破するような目標を立て、それに向かって行動すること）
・コミュニケーション能力

獲得的なレジリエンス

獲得的なレジリエンスの例として、以下があります。
・問題解決志向（積極的に問題解決に取り組もうとすること）
・自分の考え、性格、能力などの理解
・他者の感情・考えの理解

資質的なレジリエンスと獲得的なレジリエンスのどちらも重要なものですが、ストレスへの緩衝効果は資質的なレジリエンスにしか見られないことが分かっています。しかし、資質的なレジリエンス能力の高さのみがストレスからの回復につながるわけではありません。

ストレスからの回復プロセス

レジリエンスの定義が一貫しておらず多様であるように、ストレスからの回復プロセスも多様です。資質的なレジリエンス能力の高い人と低い人がストレスから立ち直るプロセスを分析した研究によると、両者ではストレスにどのように対処しているかが違っていました。

資質的なレジリエンス能力の高い人は問題解決に結びつく様々な行動を取っていました。一方、資質的なレジリエンス能力の低い人は「他者に悩みを聞いてもらう」というサポートを得て立ち直る傾向がありました。つまり、ストレスからの回復に正解や王道はないということだと思われます。

野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など