悪性症候群とは?症状の特徴や発症率の変化と対処方法について
悪性症候群とは?症状の特徴や発症率の変化、対処方法について解説
稀ではあるが、副作用としては重い症状である
精神科で処方される薬は、人によっては副作用を引き起こす可能性があります。口が渇いたり、体重が増えたり、眠気が出たりするなど症状はさまざまです。
一方で、精神科で処方される「向精神薬」は、「悪性症候群」という重篤な副作用を引き起こすことがあります。起こるのは非常にまれで、薬の開発が進むにつれて発症しにくくなっていますが、高熱や意識変容などの重い症状が特徴でもあります。
本記事では、「悪性症候群」の特徴について解説しています。「精神科の薬を飲むのが不安」と感じている方は、副作用を正しく理解するためにも、ぜひ参考にしてください。
悪性症候群とは?
具体的な症状や特徴について
悪性症候群とは、精神科で処方される「向精神薬」で起きる、高熱や筋肉の硬直、意識の変化などが生じる一連の副作用です。
明確な原因は不明ですが、脳内神経伝達物質の1つである「ドーパミン」の働きが関係していると考えられています。そのため、ドーパミンに作用する「抗精神病薬」で起きやすいことが特徴です。ただ、その他の向精神薬での発症も報告されています。
具体的な症状や発症率について確認していきましょう。
症状について
高熱から意識障害まで多岐にわたる
悪性症候群の症状は多岐にわたりますが、概ね以下の4つに分類されます。
- 高熱
- 錐体外路症状
- 意識障害
- 自律神経症状
原因が分からない発熱に加えて、血圧変化や頻脈、発汗といった自律神経症状がみられる場合は、悪性症候群が疑われます。反応がなくなったり、昏睡状態に陥ったりするなど、意識障害がみられることも特徴です。
また、錐体外路症状とは、意図せず身体の部位が動くような症状です。抗精神病薬の副作用として生じることもあるため、区別が難しいかもしれません。
悪性症候群は、抗精神病薬の投与から症状が起きるまでに1~2週間かかるケースが多く、早期の診断が難しいところが難点です。1つの症状から判断せず、複数の症状が起こっていないかを見極めて、早期に対応していくことが重視されます。
悪性症候群のきっかけ
脱水や栄養不足が引き金になるケースが多い
悪性症候群は、脱水や低栄養状態が発症リスクを高めることが分かっています。悪性症候群を発症した約80%が、脱水状態や低栄養状態にあったという報告もあり、関連が深いといえるでしょう。
さらに、疲労や感染、鉄欠乏、脳器質疾患などもリスク要因となります。また、一度悪性症候群にかかった人は再発しやすいでしょう。
一方で、遺伝的な要因や性別、年齢はとくに関係がみられないとされています。脱水や疲労など身体の健康状態に注意して、悪性症候群の発症を防ぐことが大切です。
悪性症候群の発症率とは
薬の開発により低下している
悪性症候群の発症率は、0.04%~2.4%とされていますが、2000年代以降の大規模研究では、発症率が低下しています。発症率が抑えられているのは、新しい抗精神病薬が治療の主流となったことが原因です。
従来は、「第一世代」と呼ばれる抗精神病薬が主に使われていました。第一世代の抗精神病薬は、強く作用する一方で、副作用も強いことが特徴です。そこから、副作用を抑えた第2世代の抗精神病薬が登場したことで、悪性症候群の発症率が低下しています。
悪性症候群の治療と対処法
悪性症候群が起きてしまったときには、どのように対処し、治療するのでしょうか。現在、有効とされているのは以下の3つの方法です。
対処法①:原因となる薬の中止
悪性症候群が起こった場合、まずは原因となる薬を中止することが必要です。ただ、悪性症候群の症状は多岐にわたるため、初期段階では悪性症候群だと特定するのは難しいこともあります。
悪性症候群が起こりやすいのは、ドーパミンに作用する抗精神病薬の開始や増量、処方の変更があったタイミングです。これまでに処方されていた薬の変更後に高熱が出てしまったときには、できるだけ早く主治医に相談する方がよいでしょう。
対処法②:対症療法を併用する
原因となる薬を中止した後に行うのが、症状を軽減する対症療法です。高熱が続くと意識障害につながる可能性があるため、発熱を抑えるために全身の冷却を行います。脇の下や頭、太ももの付け根を冷やすと効果的です。
さらに、脱水状態を改善するために水分をしっかりと補給します。脱水状態は、薬の血中濃度が高くなり、より悪性症候群を引き起こしやすくなるからです。水分不足により、腎臓が機能しなくなる可能性もあるため、十分な水分補給が重要です。
また、呼吸器や臓器に異変がないか、注意しておく必要もあります。入院している状態であれば、酸素投与を行いながら呼吸器の状態をモニターすることもあるでしょう。異変が生じればすぐに対応できるよう、体制を整えておくことが大切です。
対処法③:薬物療法
薬を使って悪性症候群の症状を改善する対処がとられることもあります。効果があるとされている薬は以下の3種類です。
- ダントロレン(ダントリウム)
- ブロモクリプチン(パーロデル)
- ジアゼパム(セルシン)
ダントロレンは、筋肉の緊張を緩める薬であり、悪性症候群で生じる筋肉のこわばりを和らげる効果があります。
ブロモクリプチンは、パーキンソン病の治療に用いられるドーパミンの量を増やすための薬です。悪性症候群にはドーパミンの働きが関与していると考えられているため、ドーパミンの機能を改善して症状の緩和を狙います。
ジアゼパムを始めとした「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬も使用される薬です。悪性症候群に伴う興奮状態を和らげる効果があります。
悪性症候群に気づいたらすぐに対処が必要
悪性症候群は、精神薬によって引き起こされる重篤な副作用です。薬の開発に伴って発症率は低下している傾向にありますが、症状がみられたときには速やかに対処する必要があるでしょう。
しかし、悪性症候群の症状は区別しにくく、見過ごしてしまう可能性もあります。処方されている薬が変更された後、発熱や筋肉のこわばりなどの異変があれば、かかりつけの病院に相談してみましょう。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など