ADHDとDSM-5における神経発達症群/神経発達障害群
ADHD
DSM-5における神経発達症群/神経発達障害群。これは発達障害のことですが、その中で聞き覚えのあるものは自閉スペクトラム症(いわゆる自閉症)とADHDだと思います。神経発達症群では脳機能の働きが健常者と異なるから症状や特徴が生じます。つまり、その特徴は一生続くものと言えます。とはいえ、社会人になって仕事や人間関係で上手くいかないことが色々と増えてから、初めて自分がADHDだったと知る方も多いです。
この記事では大人のADHDについて説明します。
ADHDとは
ADHDはAttention-Deficit/Hyperactivity Disorderを略したもので、日本語では注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害と訳されます。ADHDの症状は不注意や衝動性・多動性と呼ばれる注意・行動のコントロールの問題です。不注意が目立つタイプの方もいれば、衝動性が目立つタイプの方、不注意と衝動性の両方ともが目立つタイプの方といったように、患者さんによって症状や悩みは違います。
症状①不注意
不注意の症状があると、ひとつのことにずっと集中することが難しいです。また、話しかけられたり別の用事が入ったりするとそちらに意識が向いてしまって、他の用事を忘れてしまうことも往々にあります。なお小学校低学年ぐらいの子どもだと、親の話を全く聞いていない、先生からの注意をすぐに忘れてしまうということがよくあります。でも、好きなゲームには集中できるようなら、それはADHDの不注意を疑う必要はありません。集中しないといけないことは本人も分かっているし、忘れないようにしようと頑張ってもどうにもならない。それがADHDの不注意です。
社会人になってからの不注意の悩みとして、例えば以下があります。
・資料に書いてあることを読み飛ばしてしまい、正確に作業できない
・電話を受けたときに誰からの電話か聞き忘れる。電話内容を聞き誤る
・持ち物や資料の整理整頓が苦手で、何回もなくしてしまう
症状②衝動性
衝動性の症状があると、順番を守ったり後先を考えたりすることができず、すぐに行動してしまいます。例えば、相手からの質問や話が終わる前に口を挟んでしまったり、つい衝動買いをしてまったりといった具合です。せっかちな人という印象を受けるかもしれませんが、ADHDの衝動性では注意せずに道路に飛び出してしまう、何度も他の人の邪魔をしてしまうなど、自分や他人にとってデメリットになることが少なくありません。
社会人になってからの衝動性の悩みとして、例えば以下があります。
・仕事でミスをしてパニックになってしまい、上司や同僚などに相談したほうがよいところを焦って色々試して事態を悪化させてしまった
・段取りの決まっている仕事なのに違うことをついしてしまって、「勝手な行動は慎むように」と注意される
・しっかり情報集めずに就職してしまった結果、自分の能力や興味に合わない仕事に就いてしまった
症状③多動性
多動性の症状があると、落ち着いて静かに佇んでいなければならない場面と分かっていてもそわそわしたり、体が動いてしまったりしてしまいます。もしかしたら、皆さんが小学校低学年のころに授業中に訳もなく立ち歩いていた子どもがいたかもしれません。そういう子どもがみんなADHDだというわけではありませんが、その行動の背景にADHDが隠れていることも少なくないです。
とはいえ、不注意や衝動性と比べると多動性の問題は成人になると和らぎやすいです。「貧乏ゆすりやペンをカチカチさせたりと、落ち着きのない人だなぁ」ぐらいの特徴で収まることも多いです。
社会人になってから障害と向かい合うことの意味
脳機能が原因であるため、ADHDの不注意や衝動性は治せません。不注意や衝動性によるミスを何度も繰り返したり、そのようなミスに対して何度も叱責されたりした結果、抑うつ状態や不安状態になってしまうことが多いです。そういった方がネットを調べた結果、「もしかして自分はADHDなのか?」と悩むことがあります。
ADHDの特徴が明らかに見られる人であっても、自分がADHDであること、引いては自分が障害者であると受け入れること(障害受容)は決して簡単なことではありません。「障害者」という言葉に自分が持っている否定的なイメージや、他者から受ける偏見(スティグマ)の問題だけではありません。障害者であるということを仕事で配慮してもらう場合、給与や今後の昇進などはどうなるのか?ADHDについて家族にどう説明したらよいのか?未婚の場合は、障害者であることが結婚の妨げとなるにちがいない…。診断名が下されれば医療的介入や自治体による障害福祉サービスを受けることができるそうだが、それは本当に自分の助けになるのか?いろいろ悩みは尽きないでしょう。診断を受けることで「自分はADHDなんだ」と自分を納得させたい患者さんもいる一方で、診断名が下されても自分がADHDだと受け入れるには時間が必要な患者さんもいます。障害受容の難しさを心の片隅に置いておくことが大切だと言えるでしょう。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など