クリニックブログ

2022.11.022024.04.01

重篤気分調節症について~併存症や鑑別診断など~

前編の重篤気分調節症の記事では、DSM5ではうつ病躁うつ病が分類されるようになったことや、重篤気分調節症の概要と診断基準などを説明しました。

重篤気分調節症のように慢性的な易怒性を示す子どもは、複雑な病歴を持つことが多いです。そこで後編では、重篤気分調節症の併存症や鑑別診断などの関連情報について、DSM5をベースに説明します。

併存症

多くの場合、重篤気分調節症の診断基準を満たす子どもは他の精神疾患の特徴を併せ持っています。特に症状が重複しやすいのは、反抗挑発症です。とはいえ、暴言や暴力などの秩序破壊的行動・気分だけではなく、不安や自閉スペクトラム症の症状などの理由で外来に受診することもあります。適切な治療を行うためには、鑑別診断を注意深く行わなければなりません。

鑑別診断

重篤気分調節症と特に鑑別すべき疾患として、以下があります。

躁うつ病

前編と重複しますが、重篤気分調節症と躁うつ病を鑑別するうえで重要なポイントは2つあります。

まず症状の経過にエピソードがあると判断できるかです。重篤気分調節症の場合は、多少の波はあっても数ヶ月以上は易怒性を示すことがあります。重症のケースになると、怒りっぽさがその子どもの特徴であると親や友達などが思うほどです。一方躁うつ病では、躁エピソードの状態と普通の状態では違う気分を示します。

この普通の状態は、親や、年齢によっては子ども自身からも区別できるものです。また、躁エピソードのときには注意散漫や目標志向的活動の増加(やりたいことが次から次へと思い浮かび、やりすぎと言えるほどに活動すること)などの認知的あるいは行動的、身体的な関連症状も見られます。躁病や軽躁病と言えるほどの高揚した気分や誇大性などが1日以上認められたり、易怒的であれ多幸的であれ躁病や軽躁病エピソードの基準を2週間満たされたりすれば、躁うつ病の診断基準のみが適用されます。

また、中心的症状の違いも重要です。躁うつ病の中心的症状は高揚した気分や誇大性です。これらは重篤気分調節症では見られません。

反抗挑発症/反抗挑戦性障害

反抗挑発症とは、怒りっぽさや、口論好きあるいは挑発的な行動、執念深さの3つを特徴とする情動や行動のコントロールの問題です。一般的な言葉で表現すれば、非行が近いかもしれません 。

重篤気分調節症と反抗挑発症との大きな違いは2つあります。まず、重篤気分調節症のかんしゃく発作の頻度は頻回と言えるほどですが、反抗挑発症の問題行動の頻度は「しばしば」です。そのため、重篤気分調節症のほうがかんしゃく発作の重症度や頻度、慢性度が重篤と言えます。また、重篤気分調節症ではかんしゃく発作の間欠期にも易怒性を示しますが、反抗挑発症で気分症状が出ることは比較的まれです。

間欠爆発症/間欠性爆発性障害

間欠爆発症とは、衝動的に暴言や暴力を何度もふるってしまうという情動や行動のコントロールの問題です。しかし間欠爆発症の診断を下すうえで、かんしゃく発作の間欠期に易怒性が持続することは必要ではありません。また、間欠爆発症の場合は症状が3ヶ月以上認められれば診断を下せますが、重篤気分調節症の場合は症状が12ヶ月以上認められなければなりません。

自閉スペクトラム症

いつも通る道を通るといったルーチンや、いつも荷物を置く場所に置くいった儀式行為などができない場合、自閉スペクトラム症の子どもはかんしゃく発作をよく起こします。しかし、この場合のかんしゃく発作は自閉スペクトラム症の二次障害と見なされます。

重篤気分調節症の鑑別診断のまとめ

上記の疾患と重篤気分調節症の鑑別診断を以下にまとめました。

・躁うつ病…躁うつ病の診断基準も満たす場合は、躁うつ病とのみ診断される

・反抗挑発症や間欠爆発症…両方の診断基準を満たす場合、重篤気分調節症の診断名のみが付く

うつ病や不安症…併存しうる

ただし、抑うつエピソードや持続性抑うつ障害の経過、不安症の増悪などに伴って易怒性を示す場合、うつ病や持続性抑うつ障害、不安症などの診断を下すべきである

・自閉スペクトラム症、強迫症…儀式行為を行えないために自閉スペクトラム症の子どもが起こすかんしゃく発作は、重篤気分調節症ではなく自閉スペクトラム症由来のものと診断される

同様に、強迫症の子どもも手洗いや確認などの強迫行為を行えないときにかんしゃく発作を行うことがあるが、これも重篤気分調節症の症状とは見なされない

ほか、重篤気分調節症の診断が適用される年齢層の男の子にはADHDの症状が見られることもしばしばありますが、ADHDは重篤気分調節症と併存診断できます。

重篤気分調節症が引き起こす問題

言うまでもなく、かんしゃく発作や慢性的な易怒性は家族や友人、教師との関係を破壊します。また、欲求不満耐性が非常に低いので、友人と仲良く遊んだり、落ち着いて勉強したりすることができません。そのため、重篤気分調節症の子ども本人や家族の日常生活は著しく損なわれている恐れがあります。

なお、重篤気分調節症と躁うつ病の子どもの機能障害の程度は同じぐらいです。どちらも激しい攻撃や危険行動、自殺の恐れなどがあり、精神科入院が多いです。

性別に関連する診断的事項

重篤気分調節症は、明らかに女の子よりも男の子に多く見られる傾向があります。躁うつ病の有病率に男女で大きな違いは見られない傾向であるため、性別も重篤気分調節症と躁うつ病の違いのひとつと言えるかもしれません。