うつ病の新たな原因!【それは疲労の奥に潜むHHV-6型のヘルペスウイルス】
うつ病の新たな原因!それは疲労の奥に潜むヘルペスウイルス
うつ病は「こころの風邪」と呼ばれています。これは、うつ病は誰でもかかりやすいということを意味する言葉ではありますが、「ちょっと休めばうつ病は治る」と誤解する人が多くなりました。しかし、最新の研究知見によると、うつ病は実はウイルスが関連していることが分かりました。
この記事では、うつ病とウイルスとの関連についてお話します。
うつ病にはHHV-6型のヘルペスウイルスが関係していた
うつ病と疲労との関連は昔からよく知られるものです。しかし、その背後にはヘルペスウイルスが関係していることが最近の研究から分かりました。
そもそもHHV-6型のヘルペスウイルスってなに?
HHV-6型のヘルペスウイルスとは、ウイルスの一種です。赤ちゃんの頃に多くの人が突発性発疹という40℃近い高熱と発疹を伴う感染症になりますが、この突発性発疹の原因がヘルペスウイルス科の6型といわれるHHV-6型ヘルペスウイルスです。突発性発疹が治っても、このHHV-6型のヘルペスウイルスは体内にひっそりと居続けます。
HHV-6型のヘルペスウイルスは一度赤ちゃんの頃に感染すると、その後大人になっても疲れたときに活性化します。宿主が疲労を感じているということは、言うなれば宿主に危機が迫っているということです。今の宿主から別の宿主に移ろうとして、HHV-6型のヘルペスウイルスは暴れまわります。
【HSV-1.2/HHV-1.2とHHV-6の違い】口唇ヘルペスと突発性発疹はちょっと違う
疲れが溜まっているときに、口の周りや唇に小さいプチっとした水ぶくれができる人がいますよね。これは口唇ヘルペスといって、HSV-1.2/HHV-1.型のヘルペスウイルスの感染症が唇や口周りに起きた結果です。これらのHSV-1.2/HHV-1.2は単純ヘルペスウイルスともいわれて、乳児の突発性発疹を起こすHHV-6型のヘルペスウイルスとは異なります。また口唇ヘルペスはヘルペスウイルスが暴れまわると言っても、突発性発疹のように高熱が出るわけではありません。小さい水ぶくれができた後は、2週間ぐらいするとかさぶたができて終わります。
HHV-6型ヘルペスウイルスがうつ病との関連との報告がある一方で、HSV-1.2/HHV-1.2の口唇ヘルペスは再賦活化に「疲労」が関連しているものの、「うつ病」との明らかな関係性はまだ分かっていません。
HHV-6型ヘルペスウイルスとうつ病との関連
ヘルペスウイルスとうつ病の関連を報告したのは、東京慈恵会医科大学の近藤一博教授です。近藤教授は疲れるとヘルペスが出るメカニズムを長年研究してきました。そのなかで、唾液の中に潜んでいるHHV-6型ヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス6型)がうつ病と関係していることを発見したのです。
HHV-6ヘルペスウイルスが脳に感染すると、ウイルスが持つ「SITH-1」という遺伝子が強く働いてタンパク質が生成されることが近藤教授らの研究により分かりました。実際に、マウスの脳でこの遺伝子を働かせたところ、うつ病によく似た症状がマウスに見られるようになりました。また、実験はマウスだけではなく、人間の段階まで進んでいます。
うつ病の患者84人と健康な人82人の血液でこのタンパクが存在しているかどうかを調べるために、「抗体」を調べたところ、健康な人では24.4%しかSITH-1は働いていなかったのに対し、うつ病の患者では79.8%でSITH-1が強く働いていることが分かりました。このように、赤ちゃんの突発性発疹の原因になるHHV-6型のヘルペスウィルスはうつ病と過労を繋げるものであることが最近の研究によって明らかにされたのです。
ヘルペスウイルスがうつ病の発症と関連していることを報道したニュースは「うつ病の発症」としてツイッターでもトレンドに上がりました。将来的にはうつ病の新たな治療薬の開発やうつ病の更なるメカニズムの解明につながり、「うつ病はこころのあり方が原因だ」「ちょっと休めば治る」という誤解が改善されることが期待されます。
更なる研究の動向
2019年では鈴木らによって、唾液中のHHV-6型のヘルペスウイルスが産後うつのチェックとなるか研究が行われました。唾液中のウイルス量には個人差があるため、今後もまだ研究は必要ではありますが、これまでは医師の問診でしか診断できなかったうつ病が、より客観的に簡単に検査ができるようになるかもしれません。
身体の疲れは、ココロの不調とも大きく関連している
疲れというのは主観的なものです。例えば同じ労働時間であっても、充実感のある仕事はそうではない仕事と比べ、仕事後に「頑張ったな自分」と満足感を抱きますよね。この満足感により、案外疲れたとは感じにくいものです。
しかし、その時の精神状態や心の負荷の状況によって、体の疲れは蓄積されやすさも変わるものなのです。また、体の疲れが取れない中で仕事を行う事は更に疲労を大きくし、ココロの不調も更に増幅させてしまう事もあるでしょう。
そのような心の不調でお困りの時には、周囲への相談や心療内科・精神科・メンタルクリニックなどの医療機関への相談をおすすめいたします。
まとめ
うつ病は、心のありようが原因だとか、ちょっと休めば元気になるとか、これまで誤解されてきました。ウイルスがうつ病の原因と分かったり、うつ病のメカニズムが更に紐解かれることで、治療法や検査法が変わるだけではなく、社会からの偏見も変わることも期待できるかもしれません。
参考文献・サイト
Kobayashi et al.Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary -Adrenal Axis during Latent Phase of Infection iScience 23, 101187, June 26, 2020
近藤一博 ウイルス研究から判る疲労の正体 公益財団法人 国際科学技術財団サイトhttps://www.japanprize.jp/seminar_resume_191_kondo.html
NHK (2020). うつ病の発症 ウイルスが持つ遺伝子が関与している可能性 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200611/k10012466681000.html
鈴木紀子 (2019). 唾液中ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)による産後うつスクリーニングの可能性についての予備調査 医療看護研究, 16, 21-27
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【うつ病の原因について】海馬における神経新生の抑制・萎縮/脳神経接続と構造の改変とは
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など