【躁うつ病】うつ病の違いと、薬物以外の治療について解説しております
うつ病と躁うつ病の薬物療法の違いについて
うつ病の薬物療法
躁うつ病での第一選択薬が気分安定薬や非定型抗精神病薬であるのに対して、うつ病での第一選択薬はSSRIを中心とする抗うつ薬です。ここでは、うつ病に用いられる中心的な薬物にもある、抗うつ薬は躁うつ病には推奨されていない・あるいは単剤で使ってはいけないお薬ですが、それも含めて、その他の治療方法とともに補足的に説明します。
【うつ病の初発症状】抗うつ薬のSSRI
初発症状がうつ状態の患者さんには、通常、SSRIのパロキセチン(パキシル)、フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)のいずれかが処方されるでしょう。飲みはじめて比較的早い時期に、「下痢がひどくなった」、「吐き気がする」、「頭痛がひどい」といった訴えが患者さんから出た場合、患者さんと薬との相性が良くないと判断し、同じ系統の別の薬に変えて様子を見る場合があります。
この原因については、薬物代謝酵素の代謝能の個人差が原因となることもあります。たとえば、アルコールを代謝する酵素のひとつであるALDH2が弱い人は、1杯のお酒でも顔が赤くなり、吐き気や頭痛があらわれるのと同じです。また、薬が体質に合わないことがあるということも、たしかにあります。それでも、この時点で処方する抗うつ薬は、基本的に1種類にするべきです。
その処方で1~2か月様子を見て、うつが治らない、余計悪くなっている場合には、たとえばジェイゾロフトからレクサプロに変更するといった具合に、系統の違う薬を使うことが多いようです。SSRIからSNRIのサインバルタなどに変えるのも、その1例です。そのほか、三環系抗うつ薬のアミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラインや、スルピリドもその次の選択肢に考えられます。
うつ病の不安症状、パニック発作や理由のない漠然とした激しい不安には、強迫症状にも有効とされるSSRI、もしくはほかのアルプラゾラムやブロマゼパムなどの抗不安薬などを使うことがあります。躁うつ病との違い、うつ病ではこのような薬の使い方もやむを得ないと思います。
躁うつ病の薬物療法
躁うつ病では、基本的に抗不安薬は気分の波を大きくしてしまい、かえって不安定になるので逆効果です。
また、うつ病相のイライラ時には、定型抗精神病薬のレボメプロマジンが頓服としてよく使われます。しかし、躁うつ病のイライラ時には、幼児的な言動になり、べたべた甘えるような退行傾向があらわれることも指摘されています。そのようなときは、非定型抗精神病薬のオランザピンやゾテピンがおすすめです。
このようにして、うつ病の経過を見ているうちに、もし先述のかくれ躁うつ病を疑う躁症状は見つかれば、躁うつ病に極性診断変更を行うべきです。また、難治性のうつ病や、多少良くなったように見えてもすぐ再発するような遷延化したうつ病の場合も、「かくれ躁うつ病」ではないかとよく注意し、経過を観察することが重要です。
躁うつ病の治療の基本薬は、気分安定薬や抗精神病薬といわれるお薬が主体です。うつ病の様な抗うつ薬単剤投与は推奨されておらず、単剤の抗うつ薬は「躁転」のリスクが非常に高まり、病状を不安定にさせてしまいますので、注意が必要です。
薬物治療以外の治療法
電気けいれん療法(ECT:Electro Convulsive Therapy):うつ病や躁うつ病・統合失調症の治療に
おもに重度のうつ病患者さんに対して使われてきた、頭部に電気を通す治療法です。(「電気ショック」などという呼び方もあるようで、これが患者さんに怖いイメージを抱かせるようです)。
この電気刺激によって、脳・神経系の細胞に神経伝達物質レベルで活動に変化をもたらし、症状を改善しようというものです。即効性があるといわれていますが、全身けいれんを誘発するので、麻酔医による全身麻酔や全身管理化のもとで行われるのが普通です。
通常週2~3回の割合で3~4週間続けるのが、一般的なパターンです。医療機関によっては、うつ病、躁うつ病、統合失調症に対する治療として行われています。
【定期的な外来受診】心理教育も兼ねた精神療法
一般の精神科外来や心療内科の外来では、10分前後の診療時間しかとれません。ですから、大まかに次のような手順で診察が行われると思います。
- ・医師は患者さんから症状を聞く。
- ・患者さん自身も、現在の自分の症状を確認した上で、医師から日常生活のアドバイスを受ける。
- ・医師は、患者さんが規則正しい服薬をしているかどうかを確認し、していなければその継続をすすめる。
- ・患者さんの副作用などのチェックをしながら、次に処方を出す。
かなり簡易な抜粋ではありますが、一連の精神療法です。それに加えて、次のことも大切になってきます。
*患者さんやご家族に、病気の実態をよく理解してもらう。
*患者さんやご家族に、薬の効果や副作用の説明を行う。
*患者さんやご家族に、病気との向き合い方や対処の心構えを確認してもらい、そのサポートを行ってもらう。
*外来だけでなく、家族用ミーティングや、デイケア等のプログラムを活用し、患者さん同士のグループミーティングを行う事の提案。
このようにして、患者さんやそのご家族の、病気や将来的なことに対する不安を少しでも軽減し、病気を乗り越えていく勇気を持ってもらいます。繰り返される日々の外来通院の中で、徐々に病気への理解や自分の体調への関わり方がわかるようになり、心理教育も兼ねた精神療法となるのです。
ストレスが躁うつ病の引き金や、憂うつや不安の憎悪因子になることから、ストレスを事前に予測したり、それを軽減する対処方法を工夫することも、心理教育で行われます。躁うつ病も患者会、家族会といった、同じ病気を患っている人たちのコミュニティが、徐々に立ち上がってきていますので、活用してみるのもいいかと思います。
通院や治療を通して、自分の考えや自己への気づきを促す
うつ病や双極性障害では、外来を通した精神療法も効果があります。お一人お一人症状や特性は異なるのですが、認知行動療法の様に、ゆがんだ認知や行動を成果を積み重ねることにより修正していく事もあります。
また、子供のころの成育歴や親子関係が影響して、自我が揺らいでいる等「ご本人さん」の考え方や癖に応じて、環境調整や対人関係に対する精神療法などを組み合わせて取り組みます。
あくまでも、対話を通した「ご自身」への気づきと、こうしたい・こうなりたいという想いを心理士と共に見つけていきながら、自分の心や感情面の整理を促していきます。
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など