うつ病や、双極性障害の症状の影響とは?
うつ病や、双極性障害の症状の影響とは?
日常生活や社会生活への影響について記載をしております
うつ病や双極性障害と診断される方たちは、うつ状態や躁状態だけではなく、それに加えて不眠や体調不良、頭痛などさまざまな症状を併せて訴える患者さんが多いです。また若い層では、うつに加えてリストカットと拒食、過食、食べ吐きといった摂食障害に関連する訴えもお持ちの方も多くいます。
社会でもメンタルヘルスに対する注目が進み、人間関係の複雑化から職場でのうつが蔓延しやすく、「早期発見・早期治療をすれば、うつは治る」という社会での啓蒙や、企業での取り組みもあり、うつ病や躁うつ病という疾患に対しては今や珍しい単語ではなくなっております。家族や周囲の人たちなど、身近な人たちがうつ病や躁うつ病で治療しているよという方も多くなっており、周囲の理解も少しづつ進んできているように思います。
しかし実際、うつ病や躁うつ病のうつとはどのような状態のことをいうのでしょうか??
もしかしたら軽度のうつ状態は誰でも陥ることがあるかもしれません。うつ状態は人生のなかで悲しいライフイベントがその引き金となって起こることもありますし、極端な話、ひどい下痢をしたり、インフルエンザにかかって高熱で3~4日寝込んだだけでも、誰でも気分は落ち込みます。ましては失恋、失業、可愛がっていたペットの死(ペットロス)といったさまざまな悲しい出来事が起こると、1週間くらいひどく気分が落ち込みことは誰にでもあることかもしれません。
うつ病や躁うつ病では「うつ状態」が認められます。うつ病や躁うつ病のうつ症状はそういった症状が毎日継続的に続き、そのような症状のために日常生活や社会生活が送れない程気分を落としてしまう位の抑うつ症状でもあります。
うつ状態も日常生活に支障を来すほどのうつ状態とはどのような状態でしょうか?
日常生活や社会生活に影響があるうつ状態の場合、次のようなエピソードがあげられます。
・朝起きられない(遅刻してしまう等)
・仕事、学校に行けない
・何もやる気が起こらない
・以前は楽しかった趣味も、今は全然楽しくないし、やろうと思わない
・死んでしまいたい(死ぬ具体的な方法まで考えていることも)
・判断力や集中力が鈍り、今までならテキパキと数分でできたことが何十分、何時間もかかってしまう
・ミスをしやすくなった
・視野が狭くなり、問題解決のための選択肢が極端に小さくなる(一つの事しか考えづらくなる)
・家族や周囲の人が好意的に言っていることも、皮肉や自分への非難に聞こえる(認知機能のゆがみ)
特に、重いうつ状態では、今の自分の状態が「単なる気分の落ち込み」なのか、「深刻なうつ」なのかすら、ご自身で判断できない場合も往々にしてあると思います。このような状態だと、思考回路がマイナス思考に傾いたり、思考回路が停止してしまって、柔軟な思考や極端な思い込みを修復する思考回路が機能せず、その結果「私はもうだめだ!」と極端な考え方に結びついてしまったり、短絡的に死を選ぶことにつながってしまいます。
うつ病や双極性障害の方にみられる自殺は、うつ病の典型的な症状である「不安焦燥感(不安や焦りが強く苦悶する)」や「激越性(苦悶が強い興奮状態)」、あるいは躁状態である「衝動性(ブレーキが利かず拙速に行動してしまう)」が強いときに、もっとも起きやすいと考えられます。
そして躁うつ病では、躁状態とうつ状態が入り混じった「混合状態」のとき、情緒不安定になり、自殺の危険性が増します。このような深刻なうつは、単なる“こころの風邪”“心の不調”と呼ばれるようなものではすまされず、早期に医療機関へ受診して相談・治療をされることをお勧めいたします。
周りから理解されにくい躁(そう)状態
躁うつ病も、初発症状はうつからはじまることが多いのですが、やがて躁病期がやってきます。躁症状の特徴として、「不機嫌な高揚感」というものがありますが、決して「ハッピーな状態」とは限らないのです。
躁状態とは「不機嫌な、絶えず心のなかでなにか突き上げるような、じっとしていられない苦しい高揚感」を伴うことのほうが多いかもしれません。これは躁状態になったことがないと、なかなか理解してもれえないかもしれません。躁は躁で、本人は大変つらい状態なのです。
まず、躁状態になった不機嫌な高揚感をもった患者さんの行動は、周りの人にまったく理解されず、時として変な人、性格の問題として捉えられてしまって、人間関係も大きく損なってしまう事もあります。
もともと発病する前の患者さんは、人の良い社会的な性格の人が多く、周囲の人から好かれている場合が多いようです。そんな人が突然、人が変わったかのように些細なことで急に怒り出したり、不機嫌でイライラしはじめるからです。
躁うつ病の患者さんが怒っている内容というのは、必ずしも支離滅裂なものではなく、比較的筋は通っていて、周囲の人も怒っている内容は理解できるのですが、その「怒りやすさ」や「怒り方の程度」あるいは「攻撃性」が他者からは理解されづらいほど程度が不釣り合いで異常と認識されやすいです。
不機嫌な高揚感が軽度ながらずっと続いていると、些細なことでイライラが爆発します。さらにイライラが続いて不安も伴い、それを紛らわすために、つい酒びたりになったり、あるいはギャンブルに手を出したりして、依存症がはじまってしまうことも多々あります。
家族や周りの人たちは、患者さんの突然の変化に驚き、のめりこみようにあきれながらも、一度や二度は注意することもあるかと思います。しかし、本人には周囲の心配や注意はまったく届かないのです。これが「ブレーキが利かない状態」になっているということです。
患者さんがこの「ブレーキが利かない状態」になると、家族が知らないうちに100万円単位の借金を作っていたり、ちょっと気に入らないことがあると家族に暴言を吐いたり、暴力を振るうようになります。家族は患者さんの行動の本質、つまりブレーキが利かない状態になっているということが理解できず、ただただ患者さんを怖がって、困惑し、ついには家族が崩壊していくこともよくあります。職場でも、些細なことで上司に突っかかって暴言を吐いたり、同僚とけんかしたりし、その結果、周りの人たちは「かかわり合いたくない(アンタッチャブル)」と忌み嫌って離れていき、患者さんはますます孤立していくこともあります。
そうして患者さんは、家族でも、職場でも居場所がなくなってしまい、離婚したり、職を失ったりしてしまうという悲劇が起こるのです。もともと躁うつ病の躁病期では、本人の自覚がなかなか乏しいのが特徴で、その場合にはご本人さんも病気をコントロールできないのです。
また躁うつ病(双極性障害)患者さんは、家庭での離婚や別居・家庭内不和、職場での人間関係などなんらかの問題がきっかけで再発や悪化の兆候をたどってしまう方も多くみえます。
うつ病や躁うつ病の症状での極端な考え方や感情のせいで、社会活動や人間関係などへも大きく影響を及ぼしてしまう前に、お早めに医療機関へのご受診とご相談をお勧めいたします。
野村紀夫 監修
ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など