クリニックブログ

2025.08.312025.08.31

ボンディングとは?『人との絆を育む心理学的視点』

ボンディングとは?

はじめに

私たちが日々の生活で安心感を得たり、人との関係を心地よく感じたりできるのは、背後に「ボンディング(Bonding)」と呼ばれる心理的な絆があるからです。ボンディングとは、親子、夫婦、恋人、友人など、さまざまな人間関係の中で生まれる「心の結びつき」のことを指します。

この絆は一瞬で築かれるものではなく、長い時間をかけた関わりの積み重ねによって少しずつ形成されます。心理学の愛着理論においても、幼少期に養育者との間に安定した愛着関係を築くことが、その後の人間関係のあり方を大きく左右するとされてきました。

ここでは、ボンディングを深めるために重要な要素と、それが妨げられたときにどのような影響が生じるのかを整理していきます。

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ボンディングを育む要素

一貫した愛情表現

子どもにとって、親からの「安定して変わらない関わり」は安心感の基盤です。抱っこや授乳といった日常のスキンシップ、困ったときに必ず応じてもらえる経験は「自分は大切にされている」という感覚を育てます。

大人同士の関係でも同じことが言えます。パートナーがいつも誠実に対応してくれる、友人が困ったときに必ず力になってくれる。こうした一貫性が「信頼できる人だ」と感じさせ、絆を強めていくのです。

共感と受容

相手の気持ちを理解しようとする「共感」もボンディング形成に欠かせません。子どもが泣いているときに「泣かないで」ではなく「悲しいんだね」と気持ちを言葉にしてあげるだけで、心は大きく安心します。

夫婦や恋人の関係でも、相手の話に耳を傾け、気持ちを否定せずに受け止めることが、お互いの信頼を深める土台となります。

時間を共有すること

人との絆は「時間の共有」によって育ちます。遊びや食事、会話といった日常的な交流が、関係の基盤を強めるのです。親子の場合、遊びや学習を一緒にすることは「安心して探索できる環境」を与える行為でもあります。

大人の関係においても、旅行や趣味の共有といった時間が、より強固なつながりを生み出します。

安全基地としての存在

心理学者ボウルビィが提唱した「安全基地」という概念も重要です。子どもが親を安心できる存在と感じられると、自信を持って外の世界に挑戦できます。そして疲れたり傷ついたりしたときには、その安全基地に戻って癒され、再び前進できるのです。

夫婦や恋人関係でも、心が落ち込んだときに「ここに帰れば安心できる」と思える相手がいることは大きな支えになります。

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ボンディングを阻む要因

身体的接触の不足

乳児期に抱っこや触れ合いが少ないと、「守られている」という実感を持ちにくくなります。これは愛着不安や回避型の愛着スタイルにつながりやすい要因です。大人同士の関係でも、スキンシップが乏しいと心理的距離を縮めにくくなります。

不安定な関わり方

ある日は優しく、別の日には冷たい――このような一貫性のない対応は、子どもに「いつ愛されるのか分からない」という不安を植え付けます。恋愛や友人関係でも、態度が不安定な相手に対しては安心感を持つことができません。

養育者のストレス

親や養育者が強いストレスを抱えていると、子どもとじっくり向き合う余裕がなくなります。精神的疾患、経済的困難、夫婦関係の不和なども、ボンディングを弱める大きな要因です。

ネグレクトや虐待

無視や放置、暴力的な関わりは、愛着の形成を根本から妨げます。幼少期に十分な愛情を得られなかった場合、大人になってから人間関係に困難を抱えやすいことが多くの研究で指摘されています。

長期の分離

病気による入院、親の単身赴任や離婚などで長く離れる経験は、親子の絆を弱めるリスクがあります。ただし、手紙やビデオ通話などの工夫である程度の補完は可能です。

コミュニケーション不足

会話が少ない、無関心な態度を取る、相手を見ずに返事をする…これらは一見小さなことのようですが、積み重なると心理的距離を広げます。夫婦や親子関係に限らず、職場や友人関係でも同じことが言えます。

ボンディング不足がもたらす影響

情緒面への影響

■不安やストレスを抱えやすくなる

■感情のコントロールが難しくなる

■親から離れることに強い不安を感じる

人間関係への影響

■他人を信用できず常に疑ってしまう

■過度に依存する、または極端に距離を取る

■恋愛や友情で安定した関係を築きにくい

自己肯定感の低下

■「自分には価値がない」と感じやすくなる

■挑戦を避けるようになる

■他人の評価に過剰に依存する

問題行動の増加

■反抗や攻撃的な行動が増える

■親の関心を引くためにトラブルを起こす

■無気力や引きこもりにつながる

心身の健康への悪影響

■慢性的なストレスによる免疫力低下

うつ病不安障害のリスク上昇

睡眠障害や摂食障害の可能性

大人になってからの影響

■安定型➡幼少期に十分な愛情を受け、健全な距離感を持つ

■不安型➡愛情が不安定で、相手に過度に依存する

■回避型➡愛情不足により、深い関係を避ける傾向を持つ

学業やキャリアへの影響

■学習意欲や努力する意欲が低下する

■協調性やチームワークの不足

■将来の目標が描きにくくなる

まとめ

ボンディングは、親子関係に限らず、夫婦、恋人、友人、職場などあらゆる人間関係の基盤となるものです。

絆について

絆を育むには、一貫性のある愛情、共感と受容、時間の共有、安全基地としての存在が重要です。

コミュニケーションについて

一方で、スキンシップ不足、不安定な対応、養育者のストレス、虐待やネグレクト、長期の分離、日常的なコミュニケーション不足は、ボンディングを阻害します。

愛着について

絆が十分に築かれないと、情緒や人間関係、自己肯定感、心身の健康にまで悪影響が及び、大人になってからの愛着スタイルや社会生活にも影響を残します。

ボンディングは特別なイベントで生まれるものではなく、日々の小さなやり取りや共感の積み重ねによって強められるものです。関係を大切にしたいと願うなら、日常の中で相手の存在を尊重し、安心感を与える関わりを続けていくことが何よりの近道といえるでしょう。

参考文献

日本助産学会「助産用語特別検討委員会案」
https://www.jyosan.jp/uploads/files/journal/josanyougo.pdf

精神経誌 2002 第124巻別冊
https://fa.kyorin.co.jp/jspn/guideline/kG108-113_s.pdf

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など