クリニックブログ

2023.10.242025.07.14

働く人を守る「安全配慮義務」メンタルヘルスを支える企業の役割について

働く人を守る「安全配慮義務」とは

ストレス社会といわれる現代、心の健康が大きな課題となっています。うつ病不安障害など、精神的な不調を抱える労働者は年々増加傾向にあり、その背景には職場環境や働き方の問題が関与しているケースも少なくありません。

こうした状況の中で、企業に求められるのが「安全配慮義務」の適切な履行です。これは単なる労働災害の防止だけではなく、従業員の心身両面の健康を守るための重要な義務です。

安全配慮義務とは?

企業が労働者を雇用する際、当然ながら賃金を支払うだけでは責任を果たしたことにはなりません。労働契約の本質には、「労働者が安全かつ健康に働けるように配慮する」という企業側の義務が含まれています。これが安全配慮義務(労働契約法第5条)です。

この義務は、正社員だけでなく、パート・アルバイト・派遣社員など、雇用形態を問わずすべての労働者に対して適用されます。

安全配慮義務が及ぶ主な4つの領域

1. 労災・物理的な安全への配慮

建設現場での転落や、工場での機械事故など、身体的リスクが高い職場では物理的な危険を予測し、事前に対策を講じる必要があります。安全装備の整備や作業手順のマニュアル化、安全教育の実施などは、安全配慮義務の一部です。

ただし、これは建設業や製造業に限りません。事務所内での転倒事故や、腰痛リスクを伴う作業など、あらゆる職場で労災は起こり得るため、包括的な視点で安全体制を整えることが求められます。

2. 過重労働への対応

長時間労働や極端な残業は、心身に深刻な悪影響を与えることが明らかになっています。実際、うつ病の発症要因のひとつに過労があることは広く知られています。

安全配慮義務の中には、労働時間の適正な管理や業務量の調整、休憩・休暇の取得促進といった対策も含まれます。また、「過重労働」は単に労働時間の長さだけで判断されるものではなく、不規則な勤務形態(夜勤・交代制)や、極端なプレッシャーのかかる業務環境なども含めた総合的な評価が必要です。

3. ハラスメントの防止と対応

パワーハラスメントやセクシャルハラスメントといった人間関係に起因するメンタルストレスも、企業が配慮すべき重要な課題です。近年は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」も社会問題化しており、サービス業を中心に企業の対応が強く求められています。

適切な相談窓口の設置や対応フローの整備、社内研修などを通じて、「ハラスメントを許さない組織文化」を明示することは、企業の安全配慮義務の一環と位置づけられます。

4. 外部スタッフへの配慮

業務委託や派遣社員、下請企業の従業員など、企業の管理下にあるすべての就労者にも安全配慮義務は及びますとくに、作業場所を提供している立場であれば、作業環境の整備や事故防止措置は不可欠です。

安全配慮義務と個人情報のバランス

心身の健康状態に企業が配慮するためには、一定程度、従業員の健康情報が必要になります。とはいえ、健康状態や病名は個人の最もプライベートな情報です。たとえば、「うつ病」と診断されたことを上司に知られることで昇進や評価に影響が出るのではないかと不安に思う人も少なくありません。

このようなジレンマを解消するうえで重要なのが、「症状をどう扱うか」にフォーカスする姿勢です。病名そのものを告げる必要はなく、「このような配慮があれば業務に支障が出ない」といった具体的な調整案に紐づくだけでも、十分に意味があります。

従業員にも義務がある?「自己保健義務」とは

忘れてはならないのが、企業だけでなく従業員にも健康に関する責任があるということです。「自己保健義務」と呼ばれるこの義務は、自らの健康状態を把握し、必要に応じて企業に申し出たり、定期健診を受けたりすることで果たされます。

つまり、自分の体調やメンタルに不調があるとき、それを適切に企業へ伝える努力をしなければ、企業側の安全配慮義務も十分に機能しません。

誰に相談すべきか?

不調の伝え方には工夫が必要です。直属の上司に言いづらい場合には、人事部門や産業医、産業保健師などの専門職への相談も選択肢になります。職場によっては、外部のカウンセラーやEAP(従業員支援プログラム)を導入している企業もあります。

まとめ|心も体も守る企業であるために

「働く」ということは、時間とエネルギーを費やし、社会とかかわる大切な営みです。だからこそ、その場が安全であること、心の健康が守られていることは、働く人すべての基本的な権利であり、企業が果たすべき責任です。

安全配慮義務は単なる法律上の義務ではありません。それは、人を大切にする企業文化の根幹であり、従業員の持つ力を最大限に引き出すための土台でもあります。

メンタルヘルス不調を「自己責任」として終わらせず、互いに支え合う関係づくりが、より健全な職場を育てる一歩にもなります。

名古屋駅から徒歩1分の心療内科,精神科,メンタルクリニックのひだまりこころクリニック名駅地下街サンロード院 名古屋の心療内科、名古屋駅直結の名駅エスカ院 名古屋市金山の心療内科,精神科,メンタルクリニックのひだまりこころクリニック金山院 名古屋市栄の心療内科,精神科,メンタルクリニックのひだまりこころクリニックサンシャインサカエ院津島市,清須市,稲沢市からも通いやすいあま市の心療内科,精神科,メンタルクリニックのひだまりこころクリニック

野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など