抑うつ障害群の特定用語について(その壱)
抑うつ障害群の特定用語
~メランコリアの特徴を伴う・不安性の苦痛を伴う・混合性の特徴を伴う~
うつ病の中核的な特徴は気分の落ち込みや興味・喜びの喪失ですが、他にも特徴的な臨床像があります。うつ病の臨床像を補完するため、該当する場合は抑うつ障害群の特定用語も診断名に記載しなければなりません。
この記事では抑うつ障害群の特定用語のうち、メランコリアの特徴を伴う、不安性の苦痛を伴う、混合性の特徴を伴うについて詳細に説明します。
抑うつ障害群の特定用語
一言にうつ病といっても、不安が非常に強いといった臨床像がある一方で、楽しい出来事があれば明るい気分になれるという臨床像もあります。抑うつ障害群の特定用語には、以下の8つがあります。
・メランコリアの特徴を伴う
・不安性の苦痛を伴う
・混合性の特徴を伴う
・非定型の特徴を伴う
・周産期発症
・季節型
・精神病性の特徴を伴う
・緊張病を伴う
メランコリアの特徴を伴う
メランコリアの特徴を伴う臨床像を簡単に表現すると、非常に重症度の高いうつ病と言えるでしょう。この特定用語は抑うつエピソードの最悪期に以下のAとBの特徴が認められる場合に用いられます。
A 現在のエピソードで最も重度な症状を示す期間に、以下のいずれかが見られる
(1)ほぼ全て、または全ての活動に対して喜びを感じられない
(2)普段なら嬉しいと思えるはずの出来事が起きても、明るい気分になれない
B 以下の症状のうち3つ以上が見られる
(1)メランコリアの特徴のない抑うつエピソードのときとは「質そのものが違う」と感じられる絶望感や空虚感
(2)気分の日内変動(抑うつ気分は特に朝にひどい)
(3)早朝覚醒(その人の元々の起床時間よりも2時間以上早く起床してしまう)
(4)他者によって観察可能なほど著しい精神運動焦燥(ブレーキがかかったように考えたり動いたりすることができない)、または精神運動焦燥(じっと落ち着いていることができず、動き回ってしまう)
(5)有意な食欲不振、体重減少
(6)過度なあるいは不適切なまでの罪責感
メランコリアの特徴は、非常に落ち込んでいるという単純なものではありません。
他の抑うつエピソードのときとは性質が全く違う抑うつ気分を、患者さんは感じます。また、本来のその人ならば諸手を挙げて喜ぶような出来事が起きたとしても、多くても40%くらいの強さでしか喜びを感じることができません。また、その喜びもたった数分しか続かず、すぐに元の絶望感や空虚感に戻ってしまいます。
このように非常に重篤な症状を示すため、メランコリアの特徴は重度の抑うつエピソードで見られやすいです。とはいえ、同じ患者さんが複数回のエピソードでメランコリアの特徴を伴う症状を繰り返す傾向は高くありません。
不安性の苦痛を伴う
不安性の苦痛を伴う臨床像を簡単に表現すると、非常に不安の強いうつ病と言えるでしょう。
ネガティブな感情という点では抑うつと不安は同じです。しかし、抑うつは「あのときあんな失敗してしまった…。自分はなんてダメなやつなんだ…」と過去に向いた感情である一方で、不安は「もし大きな失敗してしまったらどうしよう…」と未来に起こる出来事に対する感情という違いがあります。この違いを踏まえると、不安性の苦痛を伴う抑うつ障害をイメージしやすくなるかもしれません。
不安性の苦痛を伴うという特定用語が用いられるには、抑うつエピソードまたは持続性抑うつ障害のほとんどの日において以下の症状のうち2つ以上が認められる必要があります。
(1)緊張している、張りつめている
(2)異常に落ち着かない
(3)心配のあまり集中できない
(4)何か恐ろしいことが起こるかもしれないという恐怖感
(5)自分で自分をコントロールできなくなるのではないか
上記の症状がいくつ当てはまるかによって、重症度が決まります。
軽度:2つ
中等度:3つ
中等度~重度:4つ以上
重度:4つ以上、かつ運動性の焦燥が見られる
不安の強さは、自殺リスクの高さや罹病期間の長さ、治療への反応の悪さなどと関連しています。そのため、不安性の苦痛の特徴の有無やその重症度を正確に特定することは、治療計画を立てたり、治療への反応を確認したりするうえで有用です。
混合性の特徴を伴う
混合性の特徴を伴う臨床像を簡単に表現すると、抑うつエピソードの期間中に躁あるいは軽躁状態が見られる病像と言えます。この臨床像では、抑うつエピソードの期間中のほとんどの日において以下の症状が3つ以上見られます。なお当然のこととして、以下の症状は物質の生理学的作用の結果もたらされたものではありません。
(1)高揚した気分あるいは開放的な気分
(2)誇大した自尊心
(3)いつもよりおしゃべりになる
(4)観念奔逸(色々な考えがどんどんわいてくる)
(5)やる気に満ちあふれ、目標のある活動が増える
(6)悪い結果につながる恐れのある行動を夢中になってする(たくさんの物を買いあさる)
(7)睡眠欲求の減少(眠れないではなく、眠らない。眠らなくても不調を全く感じない)
混合性の特徴による行動は本来のその人がする行動とは違うため、他者からもおかしいと感じられます。
混合性の特徴と躁病・軽躁病を明確に区分けすることは難しいですが、躁病・軽躁病の診断基準を完全に満たす場合には、双極Ⅰ型障害または双極Ⅱ型障害と診断されます。とはいえ、混合性の特徴を伴ううつ病は双極性障害に発展しやすいです。そのため、混合性の特徴がないか確認することは、治療計画を立てたり、治療反応を追跡したりするうえで有用です。
次回は『抑うつ障害群の特定用語について(その弐)』について解説を行います
野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など