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2024.02.032024.04.01

強迫症及び関連症群のDSM-5からDSM-5-TRへの変更点

強迫症及び関連症群のDSM-5からDSM-5-TRへの変更点

DSM-5-TR(TR)への改訂にあたり、強迫症および関連症群では研究成果を示しながら疫学データの改変や、自殺リスク、性差に関する記述が多くなされました。臨床的な視点から注目したい情報は、強迫症における感覚現象や巻き込み、身体醜形症における筋肉醜形症についての詳細な記述です。

この記事では、強迫症及び関連症群におけるDSM-5からTRへの変更点について説明します。

強迫症及び関連症群の概要の確認

強迫症の中核的な症状は不安であるとして、強迫症はDSM-4-TRまでは不安障害のひとつに分類されていました。その後、とらわれや繰り返し行為を主症状とするとして、DSM-5では強迫症及び関連症群という新たな診断カテゴリーが設けられました。TRにおいても同様です。

強迫症及び関連症群は、強迫症を中核に以下の疾患が含まれています。

・強迫症

強迫観念(例 「鍵をかけ忘れたかもしれない」と頭の中に浮かぶ考え)にとらわれてしまい、強迫行為(例 鍵の確認を行う)を繰り返し行う疾患

・身体醜形症

自身の外見が醜いという想いにとらわれている疾患

・ためこみ症

自身が所有している物をため込み続け、捨てることに苦痛を感じる疾患

・抜毛症

自身の髪や眉毛、体毛などの毛を繰り返し引き抜く疾患

・皮膚むしり症

自身の皮膚を繰り返しむしる疾患

強迫症の変更点

強迫症の大きな変更点は①感覚現象と巻き込み、②自殺、③その他です。

①感覚現象と巻き込み

感覚現象とは、強迫行為に先だって生じる身体的な体験のことです。ここには関節や筋肉などの体性感覚や、違和感や緊張などの内的感覚、視覚や聴覚、触覚といった外部感覚など様々な感覚が含まれます。例えば帰宅して手を洗うとき、健康な人であれば1回数秒ほど手を洗えば、サッパリした感じがすると思います。

でも強迫症の患者さんの場合、まだ手に汚れが付いているような気持ち悪さを感じます。汚れが付いていると病気になるかもしれないと考え、手がこわばることもあるでしょう。こういった気持ち悪い感覚を緩和したいという衝動が高まり、手がキレイになったという「まさにぴったり感」を得られるまで手を洗い続けることになるのです。

巻き込み症状とは

巻き込み症状とは、自分の強迫症状に家族や友人など他者を巻き込むことです。例えば、以下があります。

・保証の要求 (例)他者に何度も大丈夫と言ってもらう
・行為の強要 (例)帰宅時に他者にも何度もしっかりと手を洗わせる
・行為の代行 (例)自分の代わりに他者に鍵の確認をさせる

巻き込み症状も強迫行為と同様に不安対処であるため、他者が巻き込み症状に従ってくれないことは患者さんにとって死活問題です。巻き込み症状に従わせるため、時には患者さんは他者に暴力をふるうこともあります。暴力を回避するため、あるいは患者さんへの罪悪感から、他者が巻き込み症状に従ってしまうことは往々にあります。しかし、巻き込み症状が日常的になった場合、患者さんは自身の行動を変えることの必要性を認識しづらくなり、治療のモチベーションも下がりやすいです。巻き込み症状が認められる場合、認知行動療法では他者を含めた課題設定が必要になります。

②自殺

系統的論文レビューから強迫症の自殺念慮の生涯平均は44.1%であり、自殺企図の生涯平均発生率は14.2%であると、TRでは具体的数値が示されました。また3.6万人もの強迫症患者さんを対象にしたレジストリ研究から、強迫症による自殺死亡のオッズ比は9.8、自殺未遂のオッズ比は5.5と、自殺リスクが高いことが明らかにされました。

他の精神科の併存症の影響を調整しても同様の結果であり、自殺念慮や未遂と強迫症との間には中等度から高度の有意な関連性があると指摘されています。さらに自殺リスク増大に関連する要因として重症度や、受容しがたい強迫思考の内容や症状次元、併存するうつ病や不安症の重症度、過去の自殺歴などが記載されました。

③その他

その他として以下が追記されました。

・発症リスクファクターの生理学的要因として、前頭辺縁系前側頭と小脳を結ぶ機能系が関与している
・強迫行為の内容は環境的、文化的背景に影響される可能性がある(例 暴力が多い都市部)
・性別に関連する事項として、女性では周産期に強迫症が発症・増悪したり、母子関係を損なうような症状が生じやすい
月経前に強迫症状の増悪が見られやすい

身体醜形症の変更点

身体醜形症の大きな変更点は①文化や性差に関連した情報、②自殺、③発症のリスクファクターとしての遺伝要因です。

①文化や性差に関連した情報

性別の比率や、懸念の対象となる体の部位、苦痛の程度など、身体醜形症には文化を超えて共通する特徴があります。その一方で各文化固有の特徴もあります。そのひとつが西洋諸国に見られる筋肉醜形症です。

筋肉醜形症とは

筋肉醜形症とは、実際には筋肉質な体型であったとしても、自身の体型は貧弱だという想いにとらわれる疾患です。筋肉がキーとなる通り、男性にしか発症しないとされています。また日本に特有なものとして、まぶたが懸念の対象になりやすいことが記載されています。

性別に関連した情報もTRでは詳しくなりました。筋肉醜形症のように、懸念の対象となる部位には性差があります。男性では体格や性器、薄毛に、女性では体重や乳房、臀部、脚や腰、身体・顔面の過剰毛にこだわりやすいと言われています。また、併存症については、男性では物質使用症が、女性では拒食症が多いと記載されています。

②自殺

健常対照者と拒食症や強迫症、何らかの不安症などの患者さんを対象に行った系統的メタ解析から、身体醜形症の患者さんでは自殺念慮を経験した割合が4倍高いこと、自殺企図の可能性が2.6倍高いことが示されました。どの年代に置いても自殺リスクは高く、自殺の理由の多くは外見への憂慮でした。ただ自殺の背景には多くの場合うつ病が併存しており、自尊心の低さや失業、虐待の認識など複合的なリスクファクターが影響していると想定されています。

③発症のリスクファクターとしての遺伝要因

思春期や若年成人を対象にした双生児研究より、遺伝率は37~49%であること、女性ではさらに高率であることが追記されました。また、強迫症と共通した遺伝的脆弱性があるだけではなく、身体醜形症に特異的な遺伝メカニズムがあると考えられています。

ためこみ症の変更点

高所得国を対象に行われた12個の研究のメタ解析によると有病率は2.5%であること、性差は認められなかったことが追記されました。

抜毛症と皮膚むしり症の変更点

抜毛症については、アメリカの成人1万人を対象にしたオンライン調査から現在1.7%が罹患していること、性差はないことが追記されました。

一方皮膚むしり症については、同調査から2.1%が罹患していること、生涯有病率は3.1%であることが追記されました。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など