クリニックブログ

2023.04.272024.04.01

抑うつ障害群の特定用語について(その参)

~精神病性の特徴を伴う・緊張病を伴う~

その弐はこちらをご覧ください

一口にうつ病と言っても、その重症度は様々です。しかし、精神病性の特徴や緊張病を伴う場合は重度のうつ病と判断されます。

この記事では抑うつ障害群の特定用語のうち、精神病性の特徴を伴う・緊張病を伴うについて詳細に説明します。

精神病性の特徴を伴う

精神病性の特徴を伴うという特定用語が用いられるのは、うつ病の症状に妄想や幻覚を伴う場合です。全ての妄想や幻覚の内容が罪責感や病気、虚無感、自分への罰などの抑うつ的なテーマである場合は、「気分に一致する精神病性の特徴を伴う」とされます。反対に、上記の抑うつ的なテーマとは関係ない妄想や幻覚が含まれる場合は、「気分に一致しない精神病性の特徴を伴う」とされます。

うつ病の患者さんに特に見られやすい妄想

うつ病の患者さんに特に見られやすい妄想は以下の3つです。

・心気妄想…(例)自分は深刻な病気にかかっていて、そう遠くはないうちに死ぬだろう

・貧困妄想…(例)(実際は貯金があるにもかかわらず)お金が全くなく、破産している

・罪業妄想…(例)今にして思うと、自分は他人に大変失礼なことばかりしてきた

うつ病の患者さんに特に見られやすい幻覚

幻覚については、幻聴や幻視が見られます。「お前が悪い」と自分を非難する声が聞こえるといったように、抑うつ的なテーマのものであることが多いです。

周産期に精神病性の特徴を伴う場合

中編の記事でも説明した通り、周産期発症のうつ病に精神病性の特徴を伴うことがあります。例えば、赤ちゃんは悪霊に取りつかれているという妄想や、「赤ちゃんを殺せ」という幻聴が生じることがあります。このような妄想や幻覚は子殺しや虐待のリスクを非常に高めるため危険です

緊張病を伴う

うつ病の症状に緊張病の症状を伴う場合、緊張病の特徴を伴うという特定用語が用いられます。一昔前は、緊張病は統合失調症の下位タイプのひとつと考えられていました。しかし統合失調症だけではなく、抑うつ障害や双極性障害発達障害など精神疾患でも緊張病の症状群が認められることが現在では分かっています。

緊張病は「精神運動性」の障害とされています。精神運動とは、精神的な働きによって起きる運動のことです。ハンチントン舞踏病のように精神の働きとは関係なく体が動いてしまうことの対比として精神運動という言葉は用いられます。精神運動の障害の具体例としては以下の12個の症状があります。そのうち3個以上が認められる場合に緊張病の特定用語が用いられます。

(1)昏迷(身動きせず、外的な刺激にもほとんど反応しない)

※昏迷や昏睡とは異なり意識レベルの問題ではないため、自分が昏迷状態の間にどのようなことが起きていたかは覚えている

(2)カタレプシー(他者に取らされた姿勢のままでいること。例えば、他者に腕を曲げさせられた場合、何時間経っても患者さんは腕を曲げたままでいる)

(3)蝋屈症(他者に姿勢を取らされる際に、非常にごくわずかに一様の抵抗を取る。例えば、他者に腕を曲げさせられるときに、蝋を曲げるような感触を抱かせるぐらいの非常に軽い抵抗をしつつも患者さんは腕を曲げさせられる)

(4)無言症(失語症ではないけれども、言葉を全く発せない。言葉を発したとしても、ごくわずかである)

(5)拒絶症(理由はないけれども、他者からの指示に従わない)

(6)姿勢保持(重力に逆らった姿勢を自発的に取り続ける。例えば、自分で腕を上げ、何時間経ってもその姿勢のままでいる)

(7)わざとらしさ(演技をしているかのように普通の動作をわざとらしく行う)

(8)常同症(特に目的もなく、同じ行動や言葉を長時間に渡って何度も繰り返す)

(9)外的刺激によらない過剰な興奮(突然激しく動き出して興奮状態になる。暴力をふるうこともある)

(10)しかめ面(周囲の状況とは関係なく、しかめ面をする)

(11)反響言語(他者の言葉をオウム返しする)

(12)反響動作(他者の動作や表情などを真似する)

緊張病の症状には昏迷のように無反応状態がある一方で、著しい興奮状態も含まれます。極端な場合、同じ患者さんが活動性の低下状態と過剰状態を行ったり来たりすることもあります。また、緊張病の症状は様々です。運動の停止という観点では、昏迷のように重度のものからカタレプシーや蝋屈症のように中等度のものまであります。

周囲への関心の低下という観点では、無言症のように重度なものから拒絶症のように中等度なものもあります。このように緊張病の臨床像は複雑でイメージしにくいので、患者さんが緊張病であると気づくことは難しいです。しかし、緊張病が重度の場合は栄養を摂れなかったり、極度の疲労状態に陥ったり、自傷してしまうという問題や、他者を害する問題を起こす恐れがあります。そのため、注意深く患者さんを監視しなければなりません。

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など