クリニックブログ

2023.12.182024.04.01

双極症及び関連症群のDSM-5からDSM-5-TRへの変更点

双極症及び関連症群のDSM-5からDSM-5-TRへ

DSM-5の「双極性障害および関連障害群」は、DSM-5-TR(以下TR)では「双極症及び関連症群」と呼ばれるようになりました。診断基準には大きな変更点はありませんが、内容がより明確に説明されたり、新たなエビデンスや細かい解説が追加されたりしました。
この記事では、双極症及び関連症群についてDSM-5からTRへの変更点を説明します。

双極症及び関連症群の概要の確認

双極症及び関連症群として以下があります。

双極症Ⅰ型

気分が著しく高揚した躁病エピソードと、気分が高揚した軽躁病エピソードや気分がひどく落ち込んだ抑うつエピソードを繰り返し呈する疾患

双極症Ⅱ型

気分が高揚した軽躁病エピソードと、気分がひどく落ち込んだ抑うつエピソードの両方を少なくとも1回ずつ呈する疾患

気分循環症

軽躁病エピソードの基準を満たさないほどの軽躁状態と、抑うつエピソードの基準を満たさないほどの抑うつ状態を、2年間以上繰り返し呈する疾患

物質・医薬品誘発性双極症及び関連症

物質や医薬品が原因となって引き起こされた双極症

他の医学的状態による双極症および関連症群

医学的疾患などが原因となって引き起こされた双極症

これから疾患ごとにTRでの変更点を解説していきます。なお双極症Ⅰ型以外に関しては、あまり変更や追記されていません。

双極症Ⅰ型の変更点

双極症Ⅰ型については多岐に渡って変更や追記されています。

①診断基準

目立つ変更点は、双極症Ⅰ型の診断基準で抑うつエピソードが必須ではなくなったことです。つまり、躁病エピソードが認められれば双極症Ⅰ型と診断を下すことができるようになりました。

また、TRでは基準Aから「目標志向性」が削除されました。基準BについてDSM-5とTRとで表現が違う箇所がいくつかありますが、こちらについては訳文が変更されただけであり、診断基準が変わったわけではありません。

②症状の発展と経過

「極性」についての解説が追加されました。極性とは、再発のサイクルの中で抑うつエピソードと躁病エピソードのどちらのほうが多い傾向があるかということです。患者さんの約半数が優勢な極性を示しますが、極性によって経過が変わると言われています。

優勢の極性がある…52.7%

躁病が優勢…31.3%
うつ病が優勢…21.4%

③危険要因と予後要因

環境要因として、幼少期の逆境が早期発症や経過の悪さに関連していることをTRでは強調しています。また再発するにあたり、以下のように抑うつエピソードと躁病エピソードでは異なる出来事が関連しているようです。

・抑うつエピソードの再発…生活上のストレスや人生上の良くない出来事
・躁病エピソードの再発…結婚や学位取得など目標達成と言える出来事

遺伝要因については、双生児研究や一卵性双生児の一致率などのエビデンスから、発症に遺伝だけではなく環境も作用するという遺伝-環境相互作用について触れています。

ほか、月経や妊娠、産後などの性別に関して以下の事項が追記されています。

・月経前に気分症状が増悪する可能性がある
・妊娠中について、治療薬を中止しなければ気分エピソードの危険性は高まらない
・産後について、双極症1型については気分エピソードの危険性が高まる
・更年期に深刻な感情の乱れが生じる場合がある

④自殺念慮または自殺行動との関連

一般人口と比べた生涯の自殺リスクは、DSM-5では15倍でしたがTRでは20~30倍にほぼ倍増しました。

⑤鑑別診断

鑑別診断については全体的に詳細に追記されました。特に注目したいものはうつ病との鑑別診断、物質・医薬品誘発性双極症及び関連症、併存症の3つです。

うつ病

以下の理由のため双極症Ⅰ型とうつ病を誤診しやすいとTRでは記されています。

・初発が抑うつエピソード
・経過が長い場合、抑うつエピソードが特に生じやすい
・そもそも抑うつエピソードのときに治療を求めやすい
そこで鑑別ポイントとして以下を挙げています。
・双極症の家族歴
・発症年齢が20代前半であるか
・過去の多数のエピソード
・精神症症状の有無
・抗うつ薬治療へ反応を示さない。あるいは抗うつ薬治療中に躁病エピソードが生じた

物質・医薬品誘発性双極症及び関連症

抗うつ薬による躁病エピソードに対して、DSM-5と比べてTRでは双極症の可能性を積極的に考えていく方向性に変わりました。

併存症

身体疾患の併存についてもTRでは言及しています。その理由は、重篤な医学的状態が併存しやすいこと、そして治療を受けないために寿命が短くなる恐れがあることです。併存しやすい身体疾患には閉塞性睡眠時無呼吸症候群やメタボリック症候群、心血管系疾患などがあります。

双極症Ⅱ型の変更点

双極症Ⅱ型とうつ病の抑うつエピソードの違いが追記されました。過食や過眠などの非定型抑うつ症状や、不眠・過眠は、双極症Ⅱ型とうつ病の両疾患で見られるものです。しかし、過食や過眠は双極症Ⅱ型の患者さんに、不眠・過眠については双極症Ⅱ型の女性患者さんにより多く見られると記載されました。

気分循環症の変更点

ボーダーライン症(人に見捨てられる不安が非常に強く、対人関係や自己像、感情などに不安定性を示す疾患。DSM-5では境界性パーソナリティー障害と呼ばれていた)との鑑別診断が詳しくなりました。両疾患には短時間での著しい気分変化や自傷リスクといった症状が見られます。しかし気分循環症の場合、これらの症状は軽躁状態の中で生じるという特徴があります。また、気分の高揚や多幸感、活力の増加といった症状は気分循環症にのみ特徴的な症状です。

物質・医薬品誘発性双極症及び関連症の変更点

物質中毒または物質離脱との違いに注意した診断基準になりました。気分高揚や易怒性、活動性の増加といった基準Aの症状が臨床像の中で目立っており、かつその症状が臨床上注意する必要があるほど重症である場合にのみ、物質・医薬品誘発性双極症及び関連症の診断を下すことができます。

他の医学的疾患による双極症および関連症群の変更点

最近の研究からNMDA受容体に対抗する抗体と躁状態や混合気分、精神症の症状との関連が指摘されたことを受け、抗NMDA受容体脳炎が初めて記載されました。

また、認知症関連で鑑別診断に追記されています。神経認知障害を引き起こす病理過程の中で気分の混乱が生じたと判断され、易怒性や気分高揚といった症状が見られる場合、認知症あるいは軽度認知障害の診断とともにこの診断を下すことがあるとしました。

特定用語の変更点

以下のように変更されました。

・双極症Ⅰ型とⅡ型に分けて特定用語が記載されている
・「精神症性の特徴を伴う」については躁病エピソードと抑うつエピソードに分けて記載する
・「周産期発症」について、周産期発症の抑うつ症とマタニティ・ブルーは区別すべきである。マタニティ・ブルーは出産後の一時的な生理的変化であり、自然軽快する

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野村紀夫 監修
医療法人 山陽会 ひだまりこころクリニック 理事長 / 名古屋大学医学部卒業
保有資格 / 精神保健指定医、日本精神神経学会 専門医、日本精神神経学会 指導医、認知症サポート医など
所属学会 / 日本精神神経学会、日本心療内科学会、日本うつ病学会、日本認知症学会など